つれづれガン日記

第27話 2024/07/02 YouTube

　まだ生きている。

　何とかかろうじて生きてはいるのだが、身体が日々少しずつ、しかし確実にボロボロになって行く感覚に囚われ、明日の世界に希望など持てる状態ではない。

　とにかくいまは口が痛い。どこが痛い、ではなくもう全体が痛い。口の中全体が腫れ上がっている感覚。そして外では唇の感覚がドンドン失われて行く。小さい錠剤を唇で加えて口に入れるなんて、ほぼ無理だ。

　下顎は左側の骨が三割ほどガンに溶かされてなくなってしまった。おかげで顔の形は歪に変形している。マスクをしてるとさほど気にならないが、マスクを取った素顔を見せたら、スマホの顔認証はエラーを起こすかも知れない。なかなか割りと悲惨な状況と言えるだろう。

　そんなこんなでご飯を食べるのが少々ツラくなってきた昨今。これまで頑張って固形食を食べてきたのだが、顎が痛くクタクタに疲れ果てるだけで得る物もない。そろそろ本格的に流動食を検討すべきなのではあるまいか。

　首から上の現状としてはこんなもんだろうか。あ、顔の左半分の頬が腫れ上がっているな。これもよく原因がわからない。抗ガン剤の副作用とかなら仕方ないな、で済ませるしかない話だが。

　首から下にガンの転移は見られない。しかし相当に心臓が弱っているようである。いま、水平な道路を十メートル歩いただけで動悸が激しくなって息が苦しい。場合によっては膝に手をつき頭を下げてしばらく深呼吸をしなければ倒れてしまいそうになる。まして階段など鬼門であるから、電車の駅は利用できない。

　循環器内科から頻脈用の薬をもらって様子を見ている段階なのだがな、正直あまり効果が出ているという気がしない。毎日二回か三回血圧計で血圧と脈拍を測っていると、コピペでもしてんのかと思いたくなる数字が出てくる。朝食後に頻脈を抑える薬を飲んで、昼飯後に血圧を測れば確かに脈拍数は減っているのだが、百を切らない場合がままある。夕食後でも同様である。ガンより先に心不全で死ぬ方が早いのかも知れない。

　さてそんなこんなでほぼ寝たきりの日常なのだが、一丁前に退屈は感じる。そんなときには毎度おなじみYouTube動画を眺めることとなる。最近お気に入りは『がん情報チャンネル』である。気になる方は探して見ていただければ手っ取り早いのだが、

イロイロと参考になる情報を発信してくれていて助かる。

　ガンを扱った医療系チャンネルもYouTubeには多い。しかし大半は現役患者の参考にならない情報ばかりである。まず医療系情報を扱っていると主張しているものの、適当にネットで集めてきたんだろうなあという感じのチャンネル。話の信憑性を吟味する、なんて段階ではない。ことにサムネに人を不安にさせる文言を書いているのを見た時点で無視決定。人の不安につけ込んでアクセス数さえ稼げればいいというような浅ましい連中に重要な情報が集められる訳がない。真っ先に切り捨てるべきだろう。

　次に現役の医療関係者（何の専門家かはぼかされてたりするが）の運営していると思しきチャンネル。内容を見てみると確かに専門的な情報も数多く掲載されており人によっては参考になるかも知れない。ただやたらと「概要欄からのリンク」や「過去動画への誘導」が多くて、こちらも結局アクセス数稼ぎかあ……と寂しい気分になること請け合い。一回は目を通すが二回目はない。

　あと、投稿主自身がガン患者である動画チャンネル。これも結構あるものだ。ただし、意外に思うかも知れないが、こういう動画も正直なところあまり参考にはならない。何せ「自分はここでこう決断した」「自分の選択は間違っていなかった。だから現代医療は××だ！」みたいな主観に凝り固まった主張を振り回しているものが少なからずある。まあ標準治療を受けなくてもガンが自然消滅するケースというのはまれにあるらしいし、この動画投稿主たちが嘘をついているとまでは考えないものの、「おまえのガンと俺のガンは違うんだよ」としか思えない。自らの体験を『普遍的な奇跡』とでも言いたげな顔を見ていると、何とも言えない気分になる。

　何はともあれ、YouTubeにはチャンネルの数だけは腐るほどあるからな、何か興味のある方は、じっくり腰を据えて自分に合った動画を探してみると、意外な掘り出し物があるかも知れない。もちろんそれを見つけるまでには大量のゴミを処分しなくてはならないのだけれど。

　さて、もう午前二時か、眠らないとな。夜が明けたら朝から立ちくらみを起こしながら飯を腹に詰め込んで、抗ガン効果のあると噂されているサプリメントを山のように飲まなくてはならない。医者に処方された食後の薬は言うまでもなく。考えただけでゲップが出そうだな。どっとはらい。