第26話 2024/05/30 オプジーボ

 ガンになって嫌なこと、ツラいことはイロイロある。生活がどんどん困窮して行くのは困るし、体力が日々失われて行くのも、それに合わせて昨日までできていたことができなくなってしまうのも大変だ。


 しかしいま現在一番ツラいことを挙げるなら、首からあふれ出す膿のニオイだろうな。もちろん臭いという意味でもあるのだけれど、それ以前のこととして「自分の身体が腐って行くニオイを二十四時間吸い込み続ける」という状況はあまりマトモと言えない。精神的にかなり堪える。


 ガンが身体を腐らせることで、大事な部分が失われて行く。現在、左下顎は骨折している状態だ。ガンが顎の骨を侵食し、腐らせ溶かすことで骨が断たれてしまった。その影響で奥歯が一本抜けている。このままならもう一、二本抜けるかも知れない。


 そんなこんなで医者からは正式に左下顎のガンが再発していると宣告を受けた。本人は前回の放射線治療と抗ガン剤治療でガンが治ったなどとまったく思っていなかったので驚きもない。とは言え次の治療はそこから始まるのだ。


 ただ治療とは言っても、もう残された方法は抗ガン剤くらいしかない。手術ができる状態ではないし放射線もそう連続して使えないからな。そこで苦肉の策ということなのだろうか、今回はまずオプジーボを使うらしい。


 オプジーボ。聞き覚えのある方もいるかも知れない。二〇一八年のノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑氏が開発した免疫チェックポイント阻害薬である。早い話が免疫システムで働くT細胞のブレーキ機能を阻害して、ガン細胞に対する攻撃力を上げる薬なのだそうな。


 ただし使ったからといって有意な効果が出るかどうかはかなり博打らしい。おまけにクッッソ高いそうだ。この貧乏人に支払えるかどうかは怪しいところ。でももう取れる手段がほとんどないのだ、ダメ元でチャレンジするのも仕方ないのだろう。ないのだろうとは思うのだが、ああ、先々のことを考えると気が重い。


 とは言え死んだら先々のことなどない訳だしな、もう開き直るしかないのかも知れない。まったく何か明るい話題がないものか。ため息ため息。

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