セカイの終わりまで(俺は)楽しもう
星見守灯也
セカイの終わりまで(俺は)楽しもう
そこには混沌があった。セカイの全てが混ざりあっていた。
[はい、ここからチュートリアルです]
どこからか声がする。
ポンと棒のようなものが現れた。
[それで混沌をよーくかき混ぜてくださいね。かき混ぜたら二回つついてください]
なるほど。かき混ぜてつつくんだな。
俺はその棒を取って、ぐるぐるとかき回した。
かき混ぜればかき混ぜるほど色が変わって……。
こんなもんかな。
「よし、ちょんちょんと」
てーれってれー! 天と地ができた!
なんかあんまり天地ってかんじじゃないなあ。全体的に水のような。
[なんでもっとよく混ぜないんですか。説明聞かないタイプ? 信じらんない]
「いや、このくらいでいいかなって……」
[まあいいですよ、あなたのセカイですから。次は光を作ってください]
そうだな、光がないとセカイは生まれたとはいえない。
[では、マイクに向かって『光あれ』と言ってくださいね]
「『光あれ』!」
そう言ったとたん、セカイに光ができた。
おお、これが光か。一気にセカイらしくなる。
[次はそのスティックで、光を引っ張って光と闇にわけるんですよ]
「ほいほい」
棒で光をスワイプする。はい、光と闇、昼と夜だ。
[よくできました!]
「うん。次は?」
[同じようにその水っぽいところを上下にわけましょう]
なるほど。一回やれば勝手はわかる。
ひゅっとスワイプして水を下に落とす。
天と海と大地ができる。なるほどー。
[では、大地を二回つついてみてくださいね]
トントンと棒でつつくと、まるい何かが生まれてきた。
緑色の……植物だ。
「おー……」
[最初の植物が出てきました! ボタン切り替えで種類を変えられますよ]
俺はボタンを適当に押して、大地をつつく。
分裂するように植物が増えていく。楽しいな、これ。
[ああ、いっぱい作りましたね。そうだ、植物には太陽の熱が必要です]
「太陽を作るんだな。もうわかった」
[光から引っ張ってみてください。長押しすると大きな星ができますよ]
俺は太陽をひとつ作ることにした。
長押しして、少し大きめの太陽を作った。
それからボタンを切り替えて小さめの月を作る。
もっと月が欲しいな。いっぱい作ろう。
どんどん月を作る。空が月で埋まってしまった。
[……月、多すぎません?]
「いいだろ、月」
[いいですけど……早く動物作りましょうよ]
「動物!? 作る作る、まってこの星座作ったらね。……はい、いいよ」
[では、海の空いているところをつついてください]
海の真ん中をつつく。ぴょんと何かが跳ねた。ずいぶん小さいな?
[できましたね! チュートリアルはここで終わりです。あとはお好きなように!]
俺は天も海も大地もあちこちつついてみる。
植物も動物も、つつくと生まれるが場所によって増えたり減ったりするようだ。
面白い。もっと増やしたいな。
ピコーン!
[お知らせです。元素が基準に達しましたので、生物クリエイトが解除されました!]
「え、好きなの作れるの? やるやる!」
どんなの作ろうかな。ふよふよ漂うのばっかりだと面白くないな。
「うーん……まだ骨格はロックされてるのか……」
まず多細胞でー殻を持っていてー足がいっぱいあってー。
目があって、口は……。あと食べるものか……。
「よし!」
海をつつくとそれが泳ぎ始めた。すごいぞ。
情報画面には種類と数が増加していることがわかる。
[骨格が解除されました]
よーし、俺、もっと作っちゃうぞー!
と意気込んだとき、気づいた。月、足りなくない?
月はぶつかりあって数えられるほどに減っていた。
その上、いくつかが軌道を変えて落ちてくる。
「うわ、やめろ、せっかく作ったのに!」
ドッコーン!!
俺の……月が……。
月が海に落ちて、水を大きく巻き上げた。
慌てて情報画面を探す。残った月は一個だけ。
生き物は……たったこれだけ!?
「いや、まだ生きてる。大丈夫だ、ここから増えろ増えろ」
やたらめったらに海と大地をつつく。
あっという間に数が増えていく。
「がんばれがんばれ、できるできる、おまえらもっとやれるって!」
そうこうしているうち、なんとか生態系が回復した。
ほっと一息。
でもなんか物足りないな。
「やっぱカイジュウだな、爪があって牙があって、羽があったりしてかっこいいの!」
そうしてモデルをこねこねとし始める。
やっぱ最初は爪と牙をもって早く走るのだろう。
飛ぶためにおおきい羽をもつものも。
こう、盾みたいな装甲を持つのがいてもいい。
海にだって大きなのがいてほしい。
「おー、やったやった、かっこいいー!」
なんとも壮観だ。
大きなカイジュウがのっしのっしと歩き回っている。
おおおお! すごいぞ! カイジュウ天国だ!
「ん? なんだあれ?」
俺があれこれ考えて作ったカイジュウは、突然隕石が落ちてきて滅びた。
[……下手くそですねー]
「いや、あんなの俺のせいじゃねえよ。強制イベントだろ!?」
[最初によくかき混ぜなかった混沌のせいでできたんです。あなたのせいです]
「う……」
何も言い返せない。もうショックすぎて泣きそう。
「……今からでもなんとかできる?」
[リカバリ可能ですよ。まだ生きている生物はいますし、隕石の確率はけっこう低いですから]
「そうかー……じゃあ、もうちょっと頑張るかな……」
一瞬やる気が失せたが、しかたない。またやりなおそう。
「なあ、俺と話したりできる生き物って作れる?」
[できますよ。知恵の種というアイテムがあれば]
「ほんと!?」
[課金してくださいねー]
「ええー……」
「しかたないなあ……また作るかあ……」
今度はどんなのを作ろうかな。
あれこれとイメージが湧いてくる。今度は頭が三つあって……。
[あー……すみません。言いにくいんですが……サービス終了のお知らせです……」
「え?」
[課金してくれるプレイヤーがあまりいなくて……]
「ええ……そんなあ……」
せっかくいいアイデアが浮かんだと思ったのに。
[このセカイの時間であと一年たつと強制終了ですけど、どうします?]
「うーん……」
「とりあえず、隕石落とすか」
セカイの終わりまで(俺は)楽しもう 星見守灯也 @hoshimi_motoya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます