砂の勇者
きつねのなにか
砂の魔法
「報酬は、こんな物でよろしいのですか?」
村の村長があやし深げに聞く。
「うん、まぁ趣味みたいなもんだから」
「魔導師様ー、今度は何を頂いたんですか」
「えっとね、手から砂が出る魔法」
そういって手を突き出すと、てからさらさらと砂が地面へと流れていく。
「つっかえねー!」
勇者サクライがずっこける。魔導師はエルフなのだが、こういう市民魔法を集めて二千年以上生きているのだ。
「しかしつかえねー。魔力で威力増加させるとか出来ないの?」
「出来ると思う。ほら」
ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
砂の猛吹雪が目の前を覆う。
「これはすげえ。でも魔物には大してダメージにはならないよなあ」
「勇者サクライ様、ニホンの伝統工芸には砂をぶつけてガラスに傷をつけて模様とする技術がありますよ」
魔導師の弟子である僧侶がそう言う。
「それをモンスターにやってみろってか? おい、魔導師、呪文を教えてくれ。俺の方が魔力あるからさ」
「しょうがないなあ。私秘伝の魔法を教えてあげようじゃないか」
「魔導師様、さっき頂いたばかりなんですけどね」
勇者が魔法を放つ。それは収束された砂の暴風となって進んでいくのであった。
時にスライムがその暴風の先にあった。スライムは砂を無数に浴びて粘性がなくなり動けなくなって死んでいった。
ゴーレムがその場に居た。ゴーレムは削られた。圧倒的砂の暴風によってゴーレムは削られきり、砂となって消えた。魔石は即座に砂で削られて消え去った。
「え、これ使えるんじゃ……」
「どうよ、これ私が教えた魔法」
「魔導師様、先ほど村長から頂いたばかりですが」
さて次の街へ出発する勇者ご一行。
魔族は全て砂で消し去っていった。
スライムも、ひじき改も、ささにしきんぐも、ささやよーも、すべて削り飛ばした。
「いやーこれ凄いね」
「どうよ、私も少しは役に立つでしょ」
「魔導師様、ルンルンですね」
「魔法だしてるのは俺なんだけどな」
そうこうしているうちに次の街へ到着、難題は全て砂で解決した。
そして、魔王のところまで来た。
「ふははははは、ついに俺様の所へ来たか」
「先制砂の魔法アタック」
勇者による砂の暴風が吹き荒れる!
魔王城は削り飛ばされて粉々になった!
しかし魔王は無傷だった!
「なんだと!?」
「ふははははは、お前の魔法なんぞ耳にしてから対策会議を開いて四天王と訓練して風呂に入って温かいラーメンを食べ雑念を振り払ったわ。そんなの効かん!」
「お前もしかして喋り相手居ないのか」
「うるさいぞ勇者! さあどうするどうする」
「くそ、なんでアイツは砂の暴風から身を守りきったんだ」
ここで鼻ヒゲ眼鏡をしながら魔導師が喋る。
「アイツは砂の防御魔法を使ったみたいだね。砂のシールドを展開して砂から守り切ったんだよ。シールドを破るには魔素の枯渇を狙うしかないね」
「なるほど! 俺の魔素の低さは折り紙付きだ! どうすればいい!?」
そこに颯爽と現れる僧侶!
「ここは私めが。魔導師様、砂の魔法を展開してください!」
「え、いいの。私のでも結構威力あるよ」
そして展開される砂の魔法。砂のシールドを展開する魔王。
そしてシールドを杖でぶん殴る僧侶。
「え」慌てる勇者。
「え」慌てる魔王。
「なーるほど。砂のシールドを展開したら魔王は動けなくなる。そこでシールドに直接打撃を加えて魔素をすり減らそうってわけね」
「これ、俺も加われば……。魔導師、お前の魔素は膨大だったよな」
「うん、二千五百年以上生きてるエルフだからね」
「じゃあ魔力最大で砂の魔法を展開してくれ! 俺も叩きに行く!」
今まさに行こうとする勇者を手で制する魔導師。
「だめだよ、僧侶は自分を癒やしながら叩いているんだ。勇者じゃそんなことできないでしょ」
「くそ、俺はどうすれば」
「寝てなー起こすから」
「そんなこと出来るわけないだろ!」
「スリープ」
「ぐう」
そこへ僧侶が舞い戻ってきた。
「すみません、魔素がなくなってしまって」
「スリープ」
「ぐう」
高らかに笑う魔王。シールドも解除する。
「何を血迷ったことをしているんだこの魔導師は。これで本気の俺を見せられるってもんよ」
「ねえ、その前にさ。二千五百年以上生きてる魔導師の魔力ってどれくらいあるかわかる?」
「は? なんだ?」
ここで魔導師は押さえていた魔力を最大展開させる。あまりの魔力の流れに地面は削れ木々がなぎ倒される!
「いつもは勇者を称えて支えてるんだけどさ、最強は私なんだよね。本当の姿は見せないんだけど」
「うっそでしょ」
「ホントだよ。じゃあやろうか」
「くっそー眠らされた。おいバカ魔導師! どうなったんだ!」
「魔王は死んだよ。みんなが魔素を削ってくれたから魔法使い勝負でなんとか倒せた。砂の魔法のおかげだね」
「本当ですか魔導師様。やりましたね」
こうして魔王を倒したご一行だが、寝ていたら死んでいたという事実を話すのはあまりにも悲しいし恥ずかしいため、三人同時の砂の魔法で削りきったということにした。
「――これが五百年前に活躍した勇者達のお話。楽しかった?」
「うん!」「おねーちゃんそのエルフなの?」「そうだよ」「凄いねー!」
砂の勇者と僧侶が歴代の仲間でも抜群に面白かったと思う魔導師。
さて、次はどこの魔王を倒しに行くのだろうか。
砂の勇者 きつねのなにか @nekononanika
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