第4話 カリ・ユガ
褐色肌の少年から発せられる殺気は常人のソレとは比べ物にならなかった。彼が一言「カルキ」と唱えるだけで、場が圧迫された。まるで世界そのものを相手にしているかのような感覚。クリシュナが銃を構え、ヴァーマナが巨大化する既に斧を持っており、それごと大きくなっていた。便利な力だ。それに比べて俺はただ自分の身を護る事しか出来ない。だけど、この力が本当にクールマだとするならば、カルキを殺す唯一の手段となるはず。そのためには俺は生き残らなければならない。クリシュナとヴァーマナを犠牲にしてでも、俺は密かに「ソレ」を始めた。
「アンタがカルキの使い手?」
「そう言ってんだろうが」
「じゃあ殺されても文句言わないでよね!!」
銃撃にしてはあまりに重たい音、世界を割るような
「あの豆鉄砲よりは威力があるな、確かに。だけど俺に勝つには後数万年鍛錬が足りん」
重力場、それを操り、クリシュナを圧し潰した。血だまりと化す彼女だったもの。ヴァーマナは悲鳴を上げて斧を振り下ろす。巨大な戦斧はカルキの腕に食い込んだ。しかし、斬り落とすにまでは至らない、いや、そもそも血すら流れていない。
「重い、良い一撃だ。だがやはり足りん、足りないのだ」
そう言って今度は重力を上に向けて、天井にヴァーマナを叩きつけた。ヴァーマナもまたそのまま巨大な血だまりと化す。
天井から赤い雨が降る。
「これで一体一だ」
「みたい、だな」
「お前は何者だ? ラーマか? バララーマか?」
「俺は――」
ガコン、ガコン。
「ちっ、なんだこの揺れは」
ガコンッ! ガコンッ!
「おいお前! 何をやっている! 言わないと、いやいいどうせ最後には殺すんだ。名前など――」
「――俺の名前はクールマ、お前を殺す者だ!」
ガコンッ! ガコンッ! ガコンッ! ガコンッ!
この空間自体すら揺らす大地震が起こる。窓から見えた電波塔が倒れるのが見えた。
「お前、まさか」
「俺がクールマであるならば、世界創世を担う者であるならば、再びそれを再現する事が出来るはず」
「まさかまさかまさか!?」
「クールマよ! 乳海攪拌を今此処に!」
俺がやっているのは地球の地軸をずらす事だ。たったそれだけだ。たったそれだけでカルキは死ぬ。だって彼は世界そのものだから。地球を壊す事はイコールで彼を殺す事に繋がる。重力場が迫る。その前に。
「終わりだ! カルキ!」
ガコンッッッッッ!!!!
決定的に何かが壊れた音がした。その致命的な音はカルキから響いていた。
「地球が、割れた?」
カルキの顔面にヒビが入る。そして割れた顔から、青い肌の仮面がまた現れた。
「なるほどな、道理でヤラセと言われるわけだ」
『馬鹿ナ! 馬鹿ナ馬鹿ナ馬鹿ナ!!』
「出来レースはここまでだ――クールマ!」
ガコン。
地球が完全に割れる。コアが露わになり、星が崩れ、爆発する。
世界の終わりに、夢を見た。そこに居たのは見たこともない少女だった。
「これにてアヴァターラの選定は終了です。救世主クールマよ。あなたは何を願いますか?」
「……あなたが誰かは知らないが、次があるのなら、救世主などいらない世界にして欲しい」
「ではそのように」
――それが可能ならば最初からそうしてくれればいいのに。
とは言わないでおいた。ようやく自分が何かを知覚したからだ。自分は人じゃなかった。
記憶を無くした集合的無意識の擬人化、破滅願望の象徴化、それが俺であり、彼ら彼女らであった。特にそれが顕著だったのはカルキだった。彼は最初から自分を勝たせるためにこの選定を組んでいた。それがまさかご破算になるとは思っていなかっただろうが。一部の意識体にインド神話の記憶を植え付けたのは「ソレ」が自然であるとカルキに認識させるため、逆に記憶喪失の意識体がいたのは「同類」が異質である事を自覚させるため。何から何まで全てがカルキのためにお膳立てされたフルコース。一定数の情報と戦闘経験さえ積ませれば自動的にカルキが出てくるように設定されていたのだろう。その点、クリシュナにインド神話の知識を与えた事やヴァーマナと組ませた事は間違っていなかった。ただカルキが、いやこのゲームの主催者が間違えていたとするならば。
「俺に勝ち目を与えた事、だろうな」
せいぜい来世で後悔するといい。そう思い俺は瞳を閉じた。次の惑星でまた会おう。
完
アヴァターラの刻印 亜未田久志 @abky-6102
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