シークレットメッセージ

Haika(ハイカ)

シークレットメッセージ

 君とはよく、コーラでやりとりしてたね。


 飲み切ると、ボトルの側面にマーカーペンで書かれた文字が、現れるんだ。



 2人とも、コーラ好きで気が合うから、付き合ったんだっけ。


 告白の時は、面と向かって。


 その切欠も、コーラのシークレットボトルで


 「〇〇時に、屋上にきて」


 と。



 ケンカした時も

 「ごめんね」って、書いたっけ。




 結婚し、子供が生まれてからは、やりとりをする家族が増えた。



 ある日。

 まさか、子供からメッセージが届くなんてな。


 「あの時は、突っぱねてごめんなさい」と。




 泣けるなぁ。


 年頃なりに、色々考えて、悩んだんだよな。


 やっぱり、親子なんだなって。




 …。




 そんな日常が、ずっと続くと思っていた。


 ある日。

 君からのメッセージがピタリと止んだ。



 まるで、愛が冷めたかの様に。

 会話さえもなく。




 仕事に、構いすぎたせいかな。


 「寂しい思いをさせて、ごめん」


 そうメッセージを書き込んでみる。




 返事はない。


 一口も、飲まれている様子がなかった。


 かと思いきや

 「もう、そんな年じゃないよ?」

 と。子供の筆跡で。




 ダメだ。

 この際、ちゃんと面と向かって君に伝えなきゃ。



 と、同じように。


 今も君を愛している。という事を、伝えに──。




 …。




 遅かった。


 皆の泣き啜る声が、聞こえる。




 君はもう、この世にいない。




 もう一度、告白すると決めた日に、君は倒れた。

 気づいた時には、病に冒されていたなんて、知らなかった。


 通夜の後、子供から、コーラのボトルを渡された。


 君との思い出を噛み締める様に。

 ゆっくり味わう。



 文字が、書かれていた。




 「ずっと、内緒にしていて、ごめんなさい。


 こんな、もう助からない私なんかのために、

 心配はかけさせられないから。


 私の分まで、幸せに生きてね」




 君は、いつもそうだよな。


 奥手で、だけど、人の幸せを誰よりも願っていた。



 そんな君に会えて、本当に良かったんだよ?



 

 そんな、最後のボトルのもう側面に、こう書き足した。




 「生きていてくれて、ありがとう」と。


【完】

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