ランキング小説「トイレに流しやすいモンスターランキング」

京野うん子

ランキング小説「トイレに流しやすいモンスターランキング」

 とある企業ビルの会議室で新卒の社員登用面接が行われていた。

 パイプイスに座る青年と、彼を品定めするようなねちっこい視線を向ける面接官の面々。青年は緊張しているのだろう、お腹をしきりにさすっていた。筆者も緊張するとお腹が緩くなるタイプだからその辛さはよくわかる。そんな彼の心情を知ってか知らずか、長机の真ん中に鎮座する社長が履歴書に目を落としながら声を掛けた。


「山口君、と言ったね。履歴書コレに書いてある事は、その、本当かね?」


 社長からの質問に恐縮しながらも、山口は気持ちを振り絞りハキハキと言葉を紡ぐ。


「はい。書いてある通り私は召喚士としての才能がありまして、異界からモンスターを召喚してしまう・・・のです」


「しまう、とは?」


 社長は聞き返した。まるで自分の意思で召喚している訳ではない、という風に聞こえる。


「はい。何と言いますか、大便を排泄すると大便ではなくモンスターが出てしまう特異体質なんです」


 意味がわからない。面接官は互いの顔を見合わせるが、誰もが理解できないと言った表情。専務がたまらず尋ねた。


「つまり、君は大便をする度にお尻からモンスターを出してしまうという事か?」


「はい。最近は御社の面接を控えて緊張したのか、便秘気味なので召喚しておりませんが」


 室内が一気にざわついた。お尻は大丈夫なのか、普段は何を食べているのか、先祖に安倍晴明はいるのか、など聞きたいことは山の様にあるが、とりあえず一番気になった事を社長が聞いてみた。


「召喚したモンスターはどうするのかね?」


「流します」


「え? 流すの?」


「はい。現代日本では扱いに困るので」


 流されては下水道職員が困るが、ニュースになってないという事はそういう事なのだろう。いるのだ。下水道職員の中にモンスターハンターが。


「山口君、モンスターと言っても色々な種類がいるだろう。トイレに流しやすい物も、そうでない物も」


「はい。流しやすいモンスターもいれば流しにくいモンスターもいます」


「どうだろう、良かったら流しやすいベスト5を教えてくれないかね?」


「ベスト5……わかりました。じゃあ、5位から」


【第5位 ドラゴン系】


「5位はドラゴン系全般ですね。翼が引っ掛かって流しにくいです。特にウロボロスなんかは首が二又ふたまたになっているので勘弁して欲しいです。ヤマタノオロチは論外です」


 ウロボロス等の固有名詞の付いたドラゴンはレアではあるが、スタンダードな形状では無い事が多く流しにくい様だ。ファフニールなんかは腹の中に黄金が詰まっているので水に溶けず、苦労するらしい。


「レアなドラゴンほど流しにくいというのは面白いね。じゃあ、4位は?」


【第4位 人型の獣人、魔族】


「4位は獣人でしょうか。ケンタウロスは後ろ脚の力がとても強く、便器から後ろ脚だけが出ている状態になっても油断してはいけません。蹴られると危険です。デュラハンの様な人型魔族も同列ですね。やはり人型は手足が引っ掛かるので、すべからく流しにくい部類と言えるでしょう」


 LED殺菌灯付きのトイレだとドラキュラなんかは紫外線で消滅してしまうのでランキングからは除外。ついでにノームの様な小人タイプも除外させて頂く。


「人型はねえ、心情的にも流しにくいよねえ」


【第3位 ラミア、セイレーン等の蛇型】


「3位は蛇タイプですね。言ってしまえば奴等は多少太くて長い一本グソの様な物ですから、最近の水洗トイレなら問題なく流れるでしょう」


 特に気を付けなくても流れる蛇型だが、メデューサは目を見ない様に頭から流す必要がある。また、セイレーンは歌声を聞かないように音姫付きのトイレを推奨しておく。


「新幹線のトイレに勢いよくズコッと流したいねえ」


【第2位 スライム】


「2位はスライムです。もう思考停止ですね。スライムと分かった時点でレバー引いていいレベルです。ただ、便器に少しスライムを付けておくと洗浄効果があるので活用したい所です」


 気を付けたいのが酸性のスライムの場合、強力なトイレ洗剤と一緒に流してしまうと毒性ガスが発生してしまう事。アシッドスライムは混ぜるな危険だ。


「なるほど。流しやすいモンスターなのに流すのが躊躇われるとは実に面白いなあ。いよいよ1位の発表だね」


【第1位 一反木綿】


「1位は言わずもがな、一反木綿です。布ですからね、むしろお尻を拭く必要も無くなるんで紙代が浮いたと喜ん……」


「社長! 大変です!」


 山口青年の話を遮り、女性社員が血相を変えて駆け込んできた。


「どうした?」


「べ、便器に大魔王が引っ掛かっています!」


 女性社員の言葉を受けて面接官の視線は山口青年に突き刺さる。


「す、すみません。面接の前に便意が来て、便秘だったので魔力も溜まっていた様で……」


 ばつの悪そうな顔で答える彼に、溜め息を溢しながら社長が尋ねた。


「ちなみに山口君、大魔王の流しやすさは?」


「最下位です」

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ランキング小説「トイレに流しやすいモンスターランキング」 京野うん子 @kyouno-unko

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