第5話 家族っていいな

 転院した先の先生にお願いすると自宅で療養することになった。初めて正式な病名を言われた。


『統合失調症』


 なんの事やら分からなかったが、かなり重い精神病だった様だ。


 子供と過ごす日々は新鮮で副作用でボーッとする事の多い私は必死で遊んでいた。


 幼稚園に行きだしたため一緒に送り迎えをして治療に専念した。

 不思議と何者かの声も聞こえなくなっていった。


 回復しているのだと思った。前の会社は実質のクビだった。自主退職した。ある機関からは訴えれば勝てると言われたが、私はもう疲れていた。争えないと断った。


 就活は困難を極めたが、拾ってくれる会社があった。病気のことは大して気にしていないようだ。


 それから目まぐるしく回復し、今ではあの時のことは笑い話になっている。ただ、何が本当だったかは、いまだにわからない。


 ただ、家族の名誉のために言うが実家で私が聞こえていたような会話は話していなかったそうだ。


 入院中も私の部屋に声が届くところで話したことは一度もないんだそう。入院中は全てが幻聴だったのだ。そう思えるようになった。


 出張先でのできごとはまだ私の中では本当のことして記憶に残っている。


 今は薬を飲みながらだが、家族で楽しく過ごしている。職種が変わったことで早く家に帰れるようになり、夕食を一緒に食べてられるようになった。


 茶碗洗いは相変わらずしているが昔のように夜遅くまでになることはない。妻と分担している。


 今は目眩に悩まされているがどうにか頑張って生きている。


 脳に巣食う者は違う形で私に影響を及ぼしているようだ。


 妻はあの日から人が変わったと言い、私は以前の自分がどんな人だったかもよく覚えていない。


 今は子供も大きくなり冗談を言い合えるくらいに成長した。

 

 この姿が見られただけでも生きててよかったなと思っている。


 家族のおかげだな。

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脳に巣食うナニカ ゆる弥 @yuruya

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