第49話 おまけ 六

 ハンスはトラスの頭を撫で、褒めた。


「あ、ありがとうございます。えっと、分け終わったら私が返してきます」


「ありがとう。ほらね。これが助け合いの心だ。少し理解したかな?」


「はい。何となくわかりました。では、金貨を返してきます」


 トラスは金貨を分け終え、煙のように消えた。




「う、ううぅん……。ん? ハンス様……」


 エナは目を覚まし、ハンスの顔を見る。


「エナ、独断で動いたら駄目だと言ったのに、また一人でやろうとしたね」


「うう……。今度こそと思ったんですが、失敗しました」


 エナは視線を下げた。


「さっき一杯殴られていたし、お仕置きは無し。逆にご褒美を上げよう」


 ハンスはエナに抱き着き、目一杯撫でて褒めた。


「はうぅー。これがあるだけで辛くても頑張れちゃいます」


 エナは尻尾を振り、笑顔になった。家族と死に別れた辛さは癒えていないだろうが以前よりも確実に笑顔が増えている。


「あ……。シトラを待たせているんだった。早くいかないと!」


 ハンスはエナを地面に立たせ、手を振りながら走っていく。


「むぅーっ! ハンス様にもっと褒めてもらえるように頑張るぞっ! おおっ!」


 エナは両手を握りしめ、空に付き上げた。やる気満々の状態だが……。


「うわぁっ!」


 エナは歩き始め、石に足を取られずっこける。


「……大丈夫かな」


 ハンスはこけたエナを見ながら、苦笑いを浮かべた。


 一時間後、ハンスはシトラが待っているシラウス冒険者ギルドにやって来た。


 食堂に行くと白に近い銀髪を弄りながら椅子に不機嫌そうに座っているシトラを発見した。


「ハンスさんっ! 一時間も遅刻をするなんて、どういうことですか!」


「ご、ごめん。急用が入っちゃってさ。あと、シトラの借金は俺が全部払ったから」


「え? どういうことですか……」


 シトラは宝箱から財宝を見つけたような驚いた表情を浮かべる。驚きすぎて真顔だった。


「いやー、そこら辺で拾った石が物凄い価値があったらしくてシトラの借金返済にあてたんだ。借金は帳消しになって、これでシトラは自由の身だ。あとあと、払っていたお金も返してくれるってさ。よかったね」


 ハンスは適当な嘘をつきまくった。


「むぅ……。ハンスさん、一体何をしたんですか。ただの石が九〇億円もあるわけありません。正直に答えてください!」


 シトラは真っ直ぐな瞳でハンスを見た。


「う……。さ、詐欺を働いた者達を掃除してきた」


 ハンスはシトラの眼差しに耐えられず呟いた。


「はぁ……。全く……、私が悩みまくっていた問題をあっさり解決してくれちゃって……」


「俺はただ……、シトラに辛い思いをしてもらいたくなかっただけで……」


「わかってますよ。ハンスさんは悪いことをするような者じゃないことくらい。えっと、その……、助けてくれてありがとうございました。この御恩は一生忘れません」


 シトラはハンスに深々と頭を下げた。


「シトラ……。俺の方こそ、本当の愛を教えてくれてありがとう」


「なんか、いきなり気持ち悪い発言ですね……」


「そうかな? 誠心誠意を込めた感謝の気持ちなんだけど。なんなら俺と結婚してほしい」


「はぁ、獣族を奴隷にする者は少なからずいますが、獣族と結婚する人族は本当に見た覚えがありません」


「でも、シトラは俺の発言が嘘かどうかわかるんでしょ。なら、俺の発言が嘘じゃないってわかっているんじゃない?」


「……まあ、嘘じゃないと思いますけど。だからって、私はハンスさんと結婚する気はありません。今日は、以前一日で金貨六〇枚を稼いだからお茶してあげる約束を果たすために来たんですよ。そんな日に遅刻されて私は凄く怒っているわけですよ」


「遅れたのは申し訳ない……。反省してます……」


 ハンスは土下座しながら謝った。


「はぁ、まあいいです。ハンスさんが色々とやばい人間だと言うことは知ってますし、こんな人間の近くにいることが居心地良いと思ってしまっている時点で私もどうかしてます。ま、ハンスさんが浮気をしないと言うのなら、多少なりとも考えてあげなくもないです」


 シトラは土下座をしているハンスに手を差し伸べる。


「…………はは、も、もちろん。浮気しないよ」


 ハンスはズボンに手を擦りつけ、シトラの手を握ろうとした。


「ふんっ、嘘つきは嫌いです」


 シトラはハンスの心を読み、嘘だと見破った。そのままハンスの隣を歩き、ギルドの外に向かおうとする。


「ちょ、ちょっと待って、シトラ。み、みんな好きじゃ駄目なのっ!」


「そう言うのを女の敵、又は女たらしって言うんですよっ! 今回のお茶会は無しですね。今からでも、新しく出来たダンジョンに行きますよ。荷物持ちとしてしっかりと働いてください」


「ええっ! ちょ、ちょっとちょっと、酒場で美味しいケーキを食べようよっ!」


「どうせ、その後、お酒を飲ませてくる気ですよね。その手に乗りませんよ。あの時程、恥ずかしい思いをした覚えがありません!」


 シトラは泥酔した日を思い出したのか、頬を赤らめながら怒る。


「あの時のシトラ、滅茶苦茶可愛かったな……。絶対に襲わないから、今晩飲みに行こう」


「……嘘じゃないみたいですね。でも、嫌です。お酒を飲ませようとしてくる男は最低のゴミ野郎ですよ。まったく、なんで私はこんな人と一緒に冒険者をしているんだか」


 シトラはハンスを置いて、ギルドの外をずかずかと歩いていく。


「楽しくて居心地がいからでしょ」


 ハンスはシトラに抱き着き、頭を撫でる。


「な!」


 シトラは驚きながら、跳ね飛ばそうとするも力強く抱きしめられ動けなかった。


「ほら、こうやって抱き着いて頭を撫でられているだけで尻尾を振っちゃうくらい俺の匂いが好きになってるじゃん。もう、素直になりなよ、一匹オオカミちゃん」


 ハンスはいつもの調子で、シトラを口説く。


「ぐぬぬぬぬぬっ! そんなわけあるかっ!」


 シトラはハンスと胸ぐらをつかみ、ぶん投げた。尻尾が揺れているものの、ハンスを投げた影響だと決めつける。


「なんでぇえええええええええっ!」


 ハンスはまたもや星になった。


 ハンスは悪人を掃除するよりも、大好きなシトラを落とすことの方が何倍も難しいと悟る。


 牧場の牛糞溜めに頭から突っ込み、またもや全身糞まみれになるも、運が良いことの前触れだと信じ込み、やる気を上げる。


「国の中を掃除しきる前に、シトラを絶対に落としてやるっ!」


 ハンスは大きく叫び、意気込むも、牛糞が臭すぎてシトラはハンスをさらに嫌った。

 ハンスがシトラを落とす日は遠そうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴミ・マイ・ロード ~生粋の女たらし、ダンジョンでゴブリンに負けそうになる。でも、人間が相手なら負けません~「最弱? 魔物の相手は苦手だけど、人間相手は慣れてるんで」 コヨコヨ @koyokoyo4ikeda

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ