第13話 僕たちの先生はダンシングクィーン!
沙織のアメリカナイズされた教え方の他に、アメリカナイズされた服装もよく補習校父兄の批判の的となったものだった。
沙織のクラスの父兄が廊下で沙織に会ってお辞儀をしているのを見た他のクラスの父兄が囁いた言葉が沙織の耳にまで聞こえてきたことがあった。
「え、あれがお宅のお子さんの先生?なんかあんまり先生らしくないわねー。」
どこの国でも、子供はまだ集中力が足りないのが特徴である。それだけに、子供を相手にする場合、奇抜な教え方以外に、先生の服装を工夫する必要もあるのではないだろうかと考えて実行したことだった。
それにはちゃんとした理由があった。
沙織が子供の頃、日本の先生は皆ちゃんとした「先生らしい」格好をしていた。特に、つまらない内容の授業を聞かなくてはならない時、地味な紺か黒の「先生らしい」服装をしていた先生の姿を見ているだけでつまらなさが更に増してしまい、特に綺麗な色の絵にたまらない魅力を感じていた沙織は、夢も希望もないような暗い気分に陥ってしまっていたものだった。そんな気持ちでいる子が勉強に乗って来る筈もない。
いたずら心が働いたのはそんな時だった。沙織の場合は、いつもこっそりと教科書で隠しながら先生の似顔絵を描くことで自分自身をエンターテインして救われていた。
自分が先生になった今、先生がたまに全く違う明るい色の服装をして教室に現れたら子供たちはどう反応するだろうという考えが浮かんでしまった。どうしてもその結果を見たくて堪らなくなった沙織は、またしてもアメリカにてそれを実行に移してしまったのだ!
彼女は毎週土曜日、最高のお洒落をすることにした。まるでパーティーにでも行くように明るいラベンダーカラーや時には薄いピンクのドレスを着て、髪もひと頃流行ったアフロ風にセット。耳には必ずイヤリングを付けて子供たちの前に現れてみた。
ある時など、ちょうど補習校までの運転中にカーラジオで流れていたアバの「ダンシングクィーン」の歌のメロディーがまだ頭の中で響いていたため、沙織はその歌を歌ってパーティードレスの格好で踊りながら教室に入っていった。そんな愉快な先生を見て、子供たちは歓声をあげて大喜び!
中には、このクレージーなトンプソン先生と一緒に踊ろうと前に飛び出して来る子まで何人かいて、クラス全体が楽しいパーティーのように沸いた。
かといって、沙織のクラスは遊んでばかりいたかと言うと、実は、その反対だった。
先生の真面目な顔と咳払いが切り替えへの合図だった。クラスメートの勉強をアシストしていたあの同じヘルパーたちがすかさず、
「黙れ、勉強の時間だぞ!」とまだそのまま調子に乗っていたふざけ者たちをすぐに制してくれた。
最初にまず子供たちの信用を得ることにフォーカスしていた甲斐があったというものだ。一緒にサッカーをして、その上百点までくれるトンプソン先生に少しでも気に入られようと、子供たちは我を競って自分の行動を正し、勉強も真面目に受け止めてくれたのだった。
「フルに遊んで、フルに勉強する」
人生の基本的ルールがトンプソン先生のクラスでは自然に守られ始めていた。
To be continued...
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