第9話 先生もサッカーをするよ!
ある日沙織は更に思い切った実験をしてみた。
数人の子供がその日習ったことを理解するだけでは十分ではない。クラス全員が理解しないまま前に進むことは落ちこぼれを作ることになる。そこで、子供たちにこう言ってみた。
「もし、きょう習ったことを一人残らずクラス全員が理解したら・・・・先生は皆と一緒にサッカーをしよう!」
「え?トンプソン先生もサッカーをするの?」
意外なことだけに、特にサッカーの好きな男の子たちが大喜び!
「そのかわり、先生の質問に一人残らず全員が正しい答えを出さなくてはダメだよ。クラスの全員が理解しなければ失格!たった一人でも答えられなかったら、先生とのサッカーはなし。わかったかな?」
それ以来、子供たちは自由に自分たちだけでサッカーができる休み時間中でさえ、教室に閉じこもって勉強を続けた。幸い、先生と一緒にサッカーをすることが何かとても特別なことのように感じてくれたらしい。
その様子を覗いてみると、なんと、飲み込みの速い子供たちが飲み込みの遅い子たちを助けているではないか!
あの猿のように飛び回っていた子も飲み込みの速い生徒の一人だった!彼は頭の回転が非常に速く、クラスメートを一人一人チェックして廻っては、
「お前、違うよ。僕が説明するからよく聞けよ!」と、まるで一人前の家庭教師のような口調。それを目撃した沙織は思わず吹き出してしまった。
ついに、全員に質問をする日が到来!
クラス全体の責任が一人一人にかかってくるだけに、皆、緊張した面持ちだった。
答えがなかなか出ない子供が一人でもいると、じれったくなったヘルパーの猿小僧は座ってなどいられずに、指されている子の横へやって来て、その子の耳元で何やらささやいてコーチしている。
そうやってささやかれた子供たちは、きっとクラスメートに教えてもらった内容を一生忘れないであろうと沙織は思った。それに、皆で勉強を協力し合うことは良いことだとちょっと多目に見る先生。
ヘルパーたちの努力の甲斐あってか、それぞれがその日に習ったことを理解して、ついに全員が正解獲得!
先生と一緒にするサッカーが実現した時の子供たちの喜びようといったらこの上なかった。最後の回答者の答えが正しかった瞬間、全員同時に、
"Yay!" と大声でアメリカ人のように英語で叫んでしまい、隣のクラスから苦情が出たほどだった。
休み時間、運動場では沙織も久しぶりに童心に返ってボールを蹴った。爽やかな風が歓声をあげていた児童と先生を一緒に大きく包み込んでいって、クラス全体が幸せな気分に浸った素晴らしい午後だった。
「先生、毎週一緒にサッカーをしようよ!」
「全員が習ったことを理解すれば毎週だってやるよ!」
To be continued...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます