第3話 登校拒否児童
しばらく補習校で教えていると、そこの子供たちに共通している問題は、これも沙織の米国滞在初期の問題と同じく、自分の中の自信のなさであることが明確になってきた。
しかも、自分の意志で渡米して来た沙織と違って、子供たちは彼らの意志とは全く関係のないところで、いきなり心地よい日本での生活から引っ張り出されており、そういった子供の多くは週日、一人っきりでアメリカ人の学校の教室に入って行くことで、毎日英語だけのわけの分からぬ世界に放り込まれていたのだ。
沙織は、もし、これが大人に起きていたらどうだっただろうと思わずにはいられない。
英語がアメリカの子の様に理解できないのは当たり前なのに、自分が馬鹿だからだと思い込んでしまっている子も何人かいた。
そういった自己嫌悪の感覚は、分かる日本語にまで影響してしまい、すっかり勉強嫌いの子になっていたのだった。
補習校の子供たちは、土曜一日だけで全部詰め込もうとする日本人補習校の盛り沢山の宿題を嫌がり、金曜の夜になるとどこかしら体の痛みを訴える子が多く、いわゆる登校拒否児童が増加していると校長がこぼしていたのを思い出す。
そういう子供たちに毎週触れていると、沙織にはある一つのことがはっきりと見えてきた。
この異国での生活という異常事態においては、いわゆる普通の日本の小学校で先生や親が真っ先に口に出す「勉強しなさい」というただの叱り言葉は何の効力も発揮しないということであった。
それぞれが何らかの形でカルチャー・ショックの状態に入っている中では、どの子にも誠心誠意、愛を注いで子供たちの心の奥深くに侵入して行って、精神的な面から指導していかなければ何も進歩しないどころか、事態はますます悪化するばかりであるということが・・・。
沙織は、もともと児童心理学や早期教育には大変興味があったし、それなりの勉強もしていた。
また、大人と違ってまだまだ脳の柔らかい子供たちには、愛をベースとして、こちらが根気良く接して行けば、日本において、娘、ジュリーのケースで証明された様にどんどん変化していってくれると信じて疑わなかった。
To be continued...
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