第2話 お引越し

久々に浴びる日光は思わず目を覆いたくなるくらいに眩しかった

でもなぜかほんの少しだけ気持ちが昂るのを感じた

日光を浴びると自律神経をと整えて、気分が良くなるとテレビで見たことがあったがどうやら事実らしい

割れた窓の穴から風が吹き抜ける

冬の風は当たり前だが冷たい

最後に家から出た時はまだ初夏で夏の始まりを感じる、そんな風だ

それにしても雀のあけた穴は意外にも大きく、なかなか塞ぐのが困難だ

そして吹き抜けてくる風が机の上に山積みになったプリントを舞いあげた

これもかなり厄介だ

早急に窓を塞がねばならない

部屋に置いてあったガムテープと段ボールでとりあえずは塞ぐことに成功した

この段ボールとガムテープは学校に行かなくなって2ヶ月が過ぎた頃に両親が部屋の前に置いていったものだ

一緒に置いてあった手紙には別の学校に転校するのも一つの選択肢だという旨が書かれていた

両親は学校でうまくいっていないと思ったらしい

でも違う

別にそういうわけではない

学校ではうまくやっていた

でも本当のことは両親には言えない

こんなちっぽけな悩みで部屋に籠っているなんて言えなかった

ただちっぽけだがそのちっぽけな悩みがただ怖い


        怖い


カーテンを閉じる

色んな感情が湧いてくるが、恐怖が勝る

布団に潜り、目を瞑る

暗闇だけが心を沈めてくれる

これが「日常」になってしまった

それも怖い











ふと目が覚めた

どうやら布団に潜ってそのまま二度寝してしまったていたようだ

枕元のスマホを取ろうとしたが見当たらない

スマホを探すためにベットから体を起こした

スマホはどうやらベットの下に落ちて閉まったようだ

スマホに目をやるとさっきの雀の羽が落ちていた

ーーあいつ、大丈夫かな…ーー

ついさっきの事だが少し気になる

応急処置はしてやったがアイツはちゃんと仲間のところに戻れただろうか

どこかでまた小さく体を震わせ、蹲ってたりしないだろうか

———ピンポーン———

そんな事を考えていたら玄関の方からチャイムの音が聞こえた

一旦様子を見ようと昨日段ボールで塞いだ穴の間から玄関の方を覗く

玄関には自分と同じくらいの歳の少女がインターホンのカメラを覗いていた

半年前から友達とも家族とも話してない今の自分に女子と話す勇気なんてあるはずもない

こんな時は必殺居留守だ

半年も引きこもりをしていたらこんな事、慣れっこだ

段ボールの隙間から監視を継続しつつ、チャイムはフルシカトをかましてやった

2、3回鳴らして諦めたのか音がしなくなった

少女はそのまま体の向きを変えた

———お、帰るのか

と思ったがどうやらそうではないらしい

少女は5歩ほど前に出て再びインターホンを覗き込み、

 「私、お隣に引っ越してきた古川っていいます!」と自己紹介をした

 「これから、どうぞよろしく!」

とどうやら引っ越しの挨拶がしたかったらしい

満足したのか挨拶を終え、少女は帰って行った

その時に見えた彼女の髪はとても透き通るようで美しい茶色だった


















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隣の雀の恩返し @tenchou

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