ピンクの子豚ちゃんは全方位に可愛い~俺の嫁は神の最高傑作~

鬼ヶ咲あちたん

第1話

 俺はこの国の国王をやっている。


 偉くもなんともない。


 代々、国王を生業としている家に産まれただけだ。


 さてそんなことより、俺の隣には公爵家から嫁いできた自慢の王妃がいるのだが、これがたまらなく可愛いんだ!


 見てくれ!


 ピンク色した髪がまん丸ふっくらした色白な体に沿って揺れる様を!


 つぶらな瞳はパッと見ただけでは水色と分からないつぶらさだ!


 顔の真ん中に埋もれるようにある小さな鼻は、いつも俺が噛みつきたいのを我慢している名所だ!


 小さく見えるおちょぼ口がスイーツを頬張るときだけ大きく開くのを知っているか!?


 ああ……女神……。


 そんな王妃が、痩せたいとか世迷い言を言い出したので俺は動揺している。


 何があったんだ……。


 一日四食、一日五スイーツの生活を改めたいなんて。


 王妃の素晴らしい体型を維持するには高カロリーが必須なのに!




 俺はこっそり王妃の父親の公爵を呼び出す。


「公爵よ、喫緊の問題が発生した。王妃が痩せたいと言っているのだ」


「はあ、そのようですね」


「娘の一大事だというのに、何だその気の抜けた返事は!生きるか死ぬかだぞ!」


「死にはしないと思いますが」


「人間、食べなければ死ぬのだ。一日四食、一日五スイーツだったのを、一日三食、一日一スイーツにすると言うのだぞ」


「ふむ、健康的ですね」


「いやいやいや、一般人の基準を王妃に当てはめてはいけない。王妃は女神だぞ。燃費が人とは違うのだ。あの神々しい魅惑のボディを輝かせるため、俺は馬車馬のように働いて世の中の全てのスイーツを王妃に貢ぐつもりだ!」


「そんなことのために精力的に執務をこなしていたのですか?ビックリですな」


「何がビックリだ。公爵も親なら俺の気持ちが分かるだろう?嬉しそうにスイーツを食べる王妃の顔を見るだけで寿命が延びるんだ」


 脳内再生している嬉しそうにスイーツを食べる王妃の顔だけで、この殺風景な執務室が春になりそうだ。


「とにかく、俺は王妃にダイエットなど止めてもらいたい。何かいい手はないか?」


「そもそもどうして痩せたいと言い出したのか、その理由を陛下はご存知ないのですか?」


「それが聞いても教えてくれないのだ。恥ずかしそうに赤く頬を染める可愛い顔が見放題になっただけだった」


 今度は恥ずかしそうに赤く頬を染める可愛い王妃の顔の脳内再生が始まった。


 いいぞ!


 この顔は本当にグッときたんだ!


「国王陛下、まずはその理由から探ってみませんか?何か事情があるのかもしれません」


「事情か……そうだな、本人以外からも話を聞いてみるか」


 王妃の身の回りの世話をする侍女や、王妃と仲の良い令嬢に話を聞くが、皆んなニコニコして「大丈夫ですよ、いずれお分かりになりますよ」としか答えない。


 そうしているうちにも王妃が痩せていってしまい、俺は号泣する日々を送る。




「俺の!可愛い王妃が!やつれていく!」


「陛下、あれはやつれているのではありません。平均的な体型になっているのです」


 俺の嘆きを聞かせるために、今日も公爵を呼び出している。


 全く俺を理解してくれないのだが。


「みるみるうちにしぼんでしまったではないか!このまま消えてしまうのではないか!?」


 女神だから天に帰ってしまうのかもしれない。


 そんなこと!


 俺には耐えられない!!!


「こうなったら世界中から美食の限りを集めてやる!」


 食べずにはいられない目にも舌にも快感をもたらす幸福のフルコースを準備するぞ!


 俺は可愛い王妃のためなら、権力はためらわずに行使する派だ!


 生暖かい目で俺を見ている公爵よ。


 集める役をお前に担わせてやるからな。


 光栄に思うがいい!


 


 宴と見紛うご馳走が並ぶ食卓に、さっそく王妃を恭しくエスコートする俺。


「王妃よ、これが俺の気持ちだ。どうか受け取ってくれ」


「まあ陛下、皆には黙っていてほしいと念を押したのに、どこからか漏れてしまったのですね。でも嬉しいですわ、こんなに素晴らしい祝の席を用意してもらって」


(ん?祝の席?)


「隠しごとをしていた私を叱りもせず、ずっと見守ってくださって感謝しています。ようやく標準体重になったので、お医者様からも褒められたのですよ」


(お医者様だと?つまり俺の可愛い王妃は病気だったということか?何の病気だ?命は助かるのか?)


「悪阻が酷くて急激に痩せてしまったことは否めませんが」


(ツワリ?ツワリとは何だ?)


「これからは安定期に入りますので公務もご一緒しましょう」


(アンテイキ?アンテイキとは何だ?)


 王妃の病気かもしれない発言に動揺して、さっきから俺の頭が仕事をしない。


「来年には、家族が増えると思うと幸せです」


 王妃は自分の下腹を撫でながら、またあの赤く頬を染める可愛い顔をする。


 やつれてしぼんでも、王妃は王妃だ。


 俺の愛してやまない女神だ。


 最近は結い上げていることが多いピンク色の緩やかな髪も、ぱちくりと開かれた水色の瞳も、ツンと上向いた小さな鼻も、えくぼを作って弧を描く唇も。


 ふくよかでなくても好きだと思った。


 全部、全部。


 そんな王妃が俺の子を?


 ああ……神様……。


 ガバリと王妃を抱きしめる。


 そうしないとみっともない俺の顔を見られてしまう。


「あ゛り゛がどう゛!!!!!!」




 王妃は俺の子が腹に宿ったが、太ったままでの妊娠出産は危険を伴うと医師に警告され、痩せるまでは俺に黙っていることにしたそうだ。


 食生活を正し、適度に運動し、悪阻も相まって、俺が心配するレベルまで痩せた。


 標準体重になって医師のお墨付きをもらい、もうすぐ安定期に入ることもあって、そろそろ俺に打ち明けようとしていたらしい。


 そんな折に俺が宴と見紛うご馳走を用意したものだから、すっかり祝の席を設けてくれたと勘違いしてしまったと言うわけだ。


 侍女や令嬢がニコニコしていた訳だ。


 公爵がのんびりしていた訳だ。


 皆んな王妃が俺に直接打ち明けるのを、見守ってくれていたのだ。


 俺は泣きに泣いた。


 男泣きだ。


 愛する王妃が愛する子を産んでくれるかもしれない幸せに泣いた。




 年が明けて、俺の愛する王妃が産んだ珠のような男の子の可愛さについては説明するまでもないよな?

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