たまごヒストリー!🥚いや、ビク鳥ーロード!🐓

ほしのしずく

第1話 ビク鳥ーロード

彼女は名もなき卵、親から生命を授かり、大空……いや、砂ぼこりと藁を舞わせながら、地面を走り回るという大いなる夢を抱いていた。


これは、そんなどこにでもいる卵のお話。


卵は、生まれた時、ふかふかのベッドの上で両親の愛情を一身に受けていた。


(私……立派なニワトリになるんだ)




◇◇◇




――翌日。


卵は、ふにふにとした絶妙な柔らかさのある、回転するベッドの上に鳥違いの兄弟たちといた。


(隣のシミ卵も、その隣の微細ひび卵も、びっくりしているようね。その気持ちわかるわ。回転するベッド……その色々とスゴいわ)


彼女が周囲の様子に夢中になっていると、視線の先から湯気が立ちこめてきた。


(湯気……ということは――お風呂ね!)


唸る回転するベッド。近づいてくる湯船。


その上には、白色の回転するブラシがあった。


その瞬間は訪れた。


ちゃぷんと音を鳴らし、白くてすべすべの肌に雫が滴る。


(はわわわぁ……温かくてほっこりする。ここへこれたということは、私たち将来有望なのかしら……)


だが、湯浴みの時間は一瞬で終わり、再びベッドは唸り回転し動き出す。


今度は、濡れた体を肌触りの良いカラカラのブラシでなぞられ。


(早すぎて、心の準備はできていないけど……。形式上、これで儀式に挑むことはできる……。私はどちらなのかしら?)


そして、ニンゲンという種族による選別という儀式が始まった。




◇◇◇




空気の澄んでいる真っ白の部屋に、白い格好をしたニンゲンが数人いる1室――。


卵はそこにいた。


(私は、卵で幸せを求めることになったのね……)


ちなみに、ここへ来た者はニワトリとしての幸せを迎えることはなく、卵としての幸せを目指すことになる。


その儀式は、ニンゲンの大きな手から、手へと渡り。


最後には、パックという選別の儀式を通過した者しか、腰を掛けることが許されていない台座へと案内される。


しかし、誰もがその儀式を通過できるものではなかった。


(こ、これが選ばれし者しか受けることのない儀式……)


彼女の視線の先には、乱雑に扱われた兄弟たちの姿が映っており。


無惨にも殻を割られ、中身が見えてしまっている者もいた。


(シミ卵、微細ひび卵! みんなの犠牲……決して無駄にはしない!)


これは、鳥から卵へ伝わる口伝。


ニンゲンという種族によって選別され、儀式を通過した卵のエリート達は、ここへ戻ってくることはなく。


日が昇る時間。


この地を訪れると言われる、巨大で神々しい光を放つ目、低く唸る声をした使者に導かれ、卵達のチャンピオンロードと呼ばれる、果てしなく続く道を歩むことになる。


その名も“ビク鳥―ロード”といい、その先には、全ての卵達が求める幸せが待っていると語られていた。


(私は、必ず生き抜いて“ビク鳥―ロード”の先にあるという幸せを掴んでみせるわ!)



口云わぬ姿となった兄弟たちを横目に、彼女が決意を決めた時――。



外の世界から、ビク鳥―ロードへ導くと語られる使者が訪れを知らせるラッパ音が響く。


同時に使者は「ブロロォォン」と雄叫びをあげる。


(その時が来たようね……お父様。お母様。お世話になりました。そして、兄弟たち。私……みんなの分も幸せなってきます)


そして、彼女はビク鳥―ロードへと旅立った。




◇◇◇




――そこから時は流れ5日後。


さまざまな野菜や果物、食品が並ぶ“ビク鳥―ロード”終着地点を経緯し、彼女はニンゲンの住まいにいた。


そこは、冷たく真っ白な箱の中。


彼女以外にも、色々な者たちがいた。


土の中から、光を求め現れた野菜と呼ばれる植物たち。


実を生らし、子孫を残そうしとしてきた果実たち。


その他にもたくさんだ。


(色んな人たちの声が聞こえる。私はこれからどうなるのかしら……幸せは? いったいどこに……)


彼女が周囲を見渡しながら、今後について不安を抱いていると、光が差し込み箱を開ける音が聞こえた。


(まぶしっ――)


それと、ほぼ同時にニンゲンの大きな声が響き渡った。


「ちょっと、おかあさーん! 卵さん、ゆでるのー? 焼くのー? どっちー?」


この後、卵がどう調理しあわせにされたかは皆さんのご想像次第です。

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