母の残した道標
翌日。
僕はセーラー服を着ている。白と青の一般的なセーラー服。
「よくお似合いです。」
「そう…?。」
「えぇ。懐かしいですね。昔レイ様にもよく着付けてました。あら、ごめんなさい。」
「いいよ。もっと聞かせて。お母さんのこと。」
「はい。では―。」
家政婦さんが話してくれた。
子供頃はやんちゃでよく山奥を駆け回った話。
中学生になって急に清楚なお嬢様になった話。
高校生になって急に料理の勉強をしだした話。
何故か将来娘ができることをわかっているような話。
娘の名前が既に決まってる話。
そして遺言で僕の誕生日までここにいる間は自分の制服を着て欲しいとお願いされ、思い出の場所を回って欲しいとお願いされた話。
玄関を出て直ぐに、サイドカー付きのバイクに乗った兄がヘルメットを持って待っていた。
「行くんだろ?。」
「どうして…。」
「お前の考えてることなんて直ぐにわかるぞ。お兄ちゃん舐めるな。」
「ありがとう。バガ兄。」
「ふっ。おいこら!。」
わしゃわしゃと兄がせっかく整えた髪を解した。
「この方が似合ってるぞ。」
「バカ。」そう言ってヘルメットを被ってサイドカーに座る。
最初に行くのはお母さんが通ってた。小中学校の旧校舎。
門をくぐってバイクを止める。
「俺はここで待ってる。」
兄に見届けられ僕は校舎へ向かう。
校舎の前に2人の老夫婦が立っている。
夫人の方が先に気づいて、2人とも慌てて僕の方に走ってきた。
「レイちゃん。」
「レイ。」
第一声がそれだった。
「すまんすまん。」と謝ったものの、おそらくお母さんの遺影が強かったのだろう。
2人とも年甲斐なく泣いている。
「お母さんの話。聞かせて貰えませんか?。」
「あぁ、いいとも。レイにもお願いされたしのう。」
「そうね。」
「お母さんに…?。」
2人は昨夜夢でお母さんにあって、僕に自分の話するようお願いされたらしい。
2人にお母さんの使ってた教室に案内されて、お母さんの使ってた机、椅子に座った。
机を撫でた。
これがお母さんの使ってた机。
2人の思い出話は僕にお母さんの新しい一面を見せてくれた。
川で遊んで迷惑をかけた話。
同年代の男の子たちをからかった話。
ここを出る前にお守りを渡した話。
ふと机のもの入れを漁る。
中からひとつの切符が出てきた。
《学校→神社》と書かれた切符。
兄にお願いして神社に向かった。
鳥居を抜けると1人の巫女さんが待っていた。
「待っていましたよ。ユイさん。」
同年代ぐらいだろうか?。
長い黒髪と程よい背丈が紅白の巫女装束と調和していて綺麗だった。
「さぁこちらへ。」
巫女に案内されて祠の前に着く。
切符に誘導されて、祠に置いた。
……。
祈ると切符が《神社→海》へと変化した。
「海…。」
学校であった老夫婦の話を思い出す。
なにかあるとよく海岸で黄昏ていたらしい。
そこへ迎え。と切符が言っているようだった。
海へ着いた。
懐かしい海。
よくお母さんに連れていって貰ったっけ。
「レイ…?。」
お母さんと同年代ぐらい女性が僕に話しかけた。
「ごめんなさい。人違いでした。」
「あってますよ。はじめまして。お母さん、レイの一人娘のユイです。」
「あら。あらあら。隼人とは上手くいったのね。」
隼人とは、お父さんの名前だ。
「ごめんなさいね。レイが亡くなった時に来れなくて。」
「大丈夫ですよ。今日来てくれましたから。」
「そういうところもレイそっくりなのね。嬉しいわ。」
「ありがとうございます。良かったらお母さん話…聞かせて貰えませんか?。」
「私で良ければ。」
彼女は話してくれた。
高校生の時のお母さんのこと。
受験の時助けられたこと。
よく恋愛相談されたこと。
そして最後を看取れなかったこと。
《海→屋敷の別館》と記された場所へ向かった。
家政婦さんたちの話ではお母さんはよくここで消息をたっていたらしい。
ドアを開けようとするが開かない。
…………。
まあ開くはずないだろうと切符をドアに挿す。
ガチャァ…。
開きおった。
「お邪魔しま〜す。」
誰もいないだろうけど言ってしまう。
中は殺風景かと思ったけど。
天の川銀河の絵。
銀河鉄道の写真。
僕を案内した切符と同じものがいっぱい銀河の絵に切符の座標と紐付けされた状態で額の中に入っていた。
ふとひとつの机を見る。
いろいろな光源の入った小瓶たち。
そこにひとつの本が置いてあった。
《『銀河鉄道の夜』著:宮沢賢治》。
1人の少年が友人と共に銀河鉄道に乗って、色々な場所、人に会って行く旅物語。
なんでこんな本が?。
中を開くと本に記された場所が線で引かれている。
もうひとつ、ノートを見つけた。
それは線の引かれた場所へ行った記録。
レイの銀河鉄道旅録だった。
「ユイ。そろそろご夕飯ですよ。」
家政婦さんが呼んでいる。
もう戻らなきゃ。
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