第67話 自分は日本人なのかアメリカ人なのか?
あの裁判所での出来事以来時折、真奈はこのまま自分が通訳という職業を続けるべきなのかどうかを深く考え込んでしまっていた。
「裁判所で述べた言葉は単なる責任逃れのための言い訳だったのだろうか?それとも、真意だったのだろうか?」
通訳は、35年以上もの間やってきた職業ではあったが、
「果たして、自分は通訳として十分な仕事ができてきたと自信を持って言えるのだろうか?長年自動車産業で生きてきた人々の真意がどこまで理解できていたと言えるのだろうか?」
「また、もし、自分が自分自身の将来や命のかかっている裁判や状況に遭遇したとした場合、自分のような者に英語での説明全てを任せて安心していられるだろうか?勘違いして微妙に間違った感覚が入り込んだり、ちょっとした誤解を引き起こしたりしないだろうか?」
さらに深い自問自答は続いた。
「自分は一体全体日本人なのか?アメリカ人なのか?」という問いが存在した。
日本は二重国籍を認めない。だから、アメリカの国籍を取得した者は自動的に日本人でなくなる。
よって、アメリカ国籍を取得した真奈は今や法的には日本人ではなく、正真正銘のアメリカ人なのだ。
しかし、本当に自分はもう日本人でなくなってしまっていると言えるのだろうか?
心まで100%アメリカ人に成り切ってしまっていると言えるのだろうか?
「通訳という仕事をしている以上は、日本人の心情とアメリカ人の心情の両方を十分に理解していなければならないということになるのだろう」
「あり得ないことだろうが、日本とアメリカが戦争になったとしたら、果たして自分はどちらに付くだろうか?」
真奈は色々と考えてみたが、日米のどちらの心情も理解できるという想いが心の中で渦巻いているだけだった。
両国の文化の理解度や好みも同等と言えるほどだった。戦争になったとしたら、正直なところ自分がどちらに付くかと問われても、その答えに困ってしまうだろう。
自分にとっては、日本もアメリカもどちらも大変大切な国なだけに、どちらかを取るなどということはとてもできないのだ。
自分は日本人でもあり、アメリカ人でもあるのだ!
それこそが真実だ!
競争の激しい日米ビジネスの世界において、真奈は何十年もの間文字通り両国の人間の間に座り込んで双方の言い分を聞き、その結果、時には自分なりの考えに基づいて公平に両国文化の違いの説明まで加えていかなくてはならなかった。
大仕事の連続やプレッシャーに追われて、すっかり疲れ切っていた真奈だった。
To be continued...
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