第66話 要点を綴ったメモはあくまでも確認のみのもの?
長年通訳をやっていると、その時々の内容によって、
「いやー、今日は全てよく理解できて、お客も喜んでくれて本当に良かった」と思えるような気分の良い日もあったが、時には、内容が大変専門的で理解に困ってしまい、ただただ機械的にword to wordの通訳をしなければならないことも多々あった。
つまり、通訳としては、皆が何のことを言っているのかよく分からないが、どうも客であるエンジニアたちには意味が通じているようだからそれで良いのであろうと心の中で安堵するようなケースである。
あまりにも専門的過ぎるような内容は、客もその道の専門家ではない人が必死で理解しようと苦労していることに同情してくれて、
「大丈夫、大丈夫、よく頑張っているよ。気にしないでね。」と慰めてさえくれる。
そういった客からの優しい言葉が嬉しいと言えば嬉しいし、もちろん、そんな専門的な話の数々がしっかりとできる能力を持っていたのであれば、もっと違った職業に就いていたことであろうと思う反面、通訳としてお金をもらっている者としては、やはり穴があったら入りたい気持ちになってしまうのだった。
また、ある時は奇妙なリクエストもツアーコンダクターから入ってきたものだった。
「通訳をして欲しいのだが、あまり通訳であるということを前に出さずに、自己紹介をする時にも、できれば自分は単なるツアーガイドとして皆様の手助けに参りましたと言って欲しい」と言うのだ。
グループが泊まっていたホテルでツアコンに会った際、
「あのリクエストはどういうことなのでしょうかね?」と質問してみた。
「いやー、実は皆東京の大学教授ばかりのグループなのですよ。皆さん、ある程度英語の文書を読んで理解することはできるのですが、米人に話されるとスピードについて行けなくて、困っておられるのです。でも、大学教授としてのプライドというものがあって、英語が理解できていないということをあまりあからさまにしたくないのです。これからアメリカの大学に行って、アメリカ人教授の講義を聴く予定なのですが、真奈さんはツアーガイドとして後ろの席に座って、講義の要点だけでいいですからメモをしてくれませんか?もし、講義の後で通訳さんのメモが欲しいという方がいらっしゃった場合のみ、すみませんが、その人にだけそのメモを私がそっと渡しますから・・・」ということであった。
講義の最中、大学教授様たちは皆相槌を打ったり、笑ったりしていたので、もしかしたら、誰も真奈の書く要点メモなど要らないと言われてしまうかなと感じていた。
ところが、授業が終わると、教授全員がメモを受け取ることを要求してきたので真奈もツアコンも驚いた次第だった。
まぁ、念の為ということであったのであろう・・・???
To be continued...
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