第59話 アメリカンユーモア
アメリカ人は本当にジョークが好きである。たいていのスピーチもジョークで始めて人々を笑わせておいてから本題に入ることが多い。前に紹介したカーメーカーの購買部長のように、行き過ぎのジョークは困るが、ジョークなど全く期待できないような場所、例えば、深刻な税関などでさえもユーモアを入れてくる検査官が結構いるのは嬉しい。
日本人はもともと真面目。特に、緊張した面持ちの税関などでジョークをいう人はあまりいない。
カナダのウィンザーの街はデトロイトの川向こうだったので気楽に税関を通ってカナダ入りができた。アメリカのケーキ、パイ、アイスクリームは甘過ぎるものが多いが、カナダはアメリカよりヨーロッパの影響が強いのか、甘い物もフランス風でアメリカより美味しい。それで、真奈は時々甘い物を買いに今の夫のテイトとわざわざカナダまで税関を通って行くことがあった。
ある時など、たくさんアイスクリームを買い込んで、クーラーに入れて持ち帰っていた。アメリカの税関ではいつも通りの質問が出た。
検査官:「カナダ入国の目的は?」
テイト:「アイスクリームを買いに行ってきました」すると、検査官は怒ったような顔をしてこっちを見た。
にこりともせずに次の質問をした。
検査官:「What flavor? (アイスクリームは何味を購入したか?)」
テイト:「???・・・ストロベリーとバニラにクルミの入ったのと・・・」
検査官はまた真面目な顔で、テイトを遮った。
「もういいから、行け!」
これは検査官のドライなユーモアだったのだ。
このようなドライなユーモアは日本人には理解し難い。特に、それを英語で言われると、理解することの方に必死で可笑しさに気が付かないことも多い。
真奈が留学生として初めてアメリカの大学に行っていた時、アメリカ人のクラスメートたちと一緒に映画を観に行ったことがあった。それがユダヤ人独特のユーモアで一杯のコメディだったので、映画館のアメリカ人観客たちが皆大声をあげて笑っている中、その頃の真奈はまだユダヤ人の特徴など知らなかったため、一人だけなんで可笑しいのかが分からずずっと白けて座っているのが大変苦痛だったのを覚えている。
アメリカのジョークが理解できるようになるには、長年こちらに住んで色々なことを知ってからでないと無理なのである。
たとえ長年住んだ後でも、昔アメリカで流行ったコマーシャルを茶化したジョークなんか、そのコマーシャルを聞いたこともない人にその可笑しさが分かる筈がない。
真奈の会社がクリスマスに皆でコメディショーに行き、なぜ皆が笑っているのかが分からなかった日本人の駐在員にいちいちジョークを通訳したことがあったが、ジョークも説明された後では可笑しさが半減してしまう。
ある時、アメリカにいる娘を訪ねたいと、英語の分からない日本のお母さんが渡米したことがあった。アメリカの税関において英語で受ける質問は、いつも
「アメリカにどのぐらい滞在の予定ですか?」だから、
「税関で質問されたら、答えは英語で"Two weeks."というのだよ」とお母さんは家族に何度も言われて日本を出て来ていた。
日本を出る前に髪を切って来ていたお母さん。ところが、彼女のパスポートの写真は髪を切る前のものだった。お母さんはまさか税関の人が自分の髪型について冗談を言うとは想像もしていなかった。
「おお、髪型を変えたね?見違えてしまったよ。まさか日本からのスパイじゃないよね」とか言って、からかわれたらしいのだが、お母さんは真面目に家族に言われてきた通り、
"Two weeks. "の一点張り。
その税関の検査官がなんと言おうと、とにかく"Two weeks."を言い続けた。ついに検査官もそのお母さんにジョークを言うのを諦めたという。
税関の検査官は時に悪人をキャッチしなければならない重い任務がある。真面目にならなくてならないのは当たり前のことだろう。しかし、そんなに厳しく目を光らせている人々の中でさえ、ユーモアは人間としての温かみを加えてくれる。
ユーモアをよく使うアメリカ人のスケールの大きさというか、心の余裕が真奈は大好きだ。
To be continued...
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