第58話 日本語が分かると愉快なお話
ニューヨークで米人のジャズ・ミュージッシャンと同棲していた学生時代の友人、ルリ子のペントハウスで、日本の友達たち何人かと待ち合わせして、女ばかりで雑魚寝したことがあった。男性と言えば、ルリ子のそのお相手だけだった。
雑魚寝していた女たちはその頃まだ40代だったが、友人の彼氏だったジャズミュージッシャンは彼女たちより30歳近くも年上だった。年のせいか朝寝坊のできないその彼が、毎朝ゴホゴホ洗面所で咳き込んでいたものだから、その音で女たちは朝早く目が覚めてしまっていた。
ある朝、皆で朝食を食べていた時に、女性軍の中の一人がついに頭に来て、その彼の方を見ながら、
「あのジジイの咳がうるさくてゆっくり寝てもいられないよ。ジジイ、朝ぐらい静かにしてくれよ!」と、大変失礼なことを、どうせ日本語が分からないのだからいいだろうと、当の本人の前で言ってしまったのだ。
それをキャッチした彼が、なんと真奈の方を見て質問して来た。
”Mana, what is ジジイ?I think she is talking about me. "
真奈は困った。
なんとかこの場をうまく逃れる方法はないか?と考えた。
彼の気持ちを傷付けないように、
つい、”ジジイ means handsome boy." と言ってしまった・・・。
”Stinky old man" とか、”old geezer"なんてそのまま言うことはどうしてもできなかった。
すると、その彼、
"Oh, that's so nice. Now, what is beautiful lady in Japanese? I would like to pay a complement in return." ときた。
ここで真奈はまた考えた。
ジジイなどと日本語の分からない彼に向かって失礼な言葉を発した彼女はお返しをされるべきだ。
そこで、すかさず彼女は、
"Beautiful lady in Japanese is ババア・・・。” と言ってのけたのだった!
何も知らない彼がニコニコ顔で、
「ババア」「ババア」と何回もその彼女に向かってお返しを囁き始めたから堪らない。
我々日本人女性の一軍はもう笑いたいのを堪えて、苦しいのなんのって・・・。
「ババア」と呼ばれていた彼女も、自分が彼を「ジジイ」などと呼んだために始まったことなので文句も言えない。
ルリ子のペントハウスにいた間はそれでも良かったのだが、その後、皆で他の日本人客で賑わっていた街中の日本食レストランに行って食事をしていた時に、
そのジャズ・ミュージッシャンのジジイが(失礼!)嬉しそうに、ちょっと離れて座っていたbeautiful ladyに向かって大変得意げに、日本人のいっぱいいる前でなんと大声で、
「ババア!!」と叫んだのだった!
その瞬間、レストランにいた日本人客たちの会話が止まったことは言うまでもなかった。
あー、もうその時のババアの顔といったら!
今も忘れられない愉快な思い出だ。
To be continued...
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