第45話 日本人は良いカモである?

 日本車が売れ始めたことで、当時デトロイトでは否が応でも日本人への注目が急増していた。と、同時に、多くの日本人がビジネスマンだったデトロイトでは、「日本人なら皆カネを持っているだろう」という噂が流れた。そのせいか、犯罪者たちに「日本人は良いカモである」と見られ始めた。


 真奈が狙われる回数も増えていった。


 仕事から帰る途中の路上でも、隣を走っていたトラックの中の2人組の若者が、

「タイヤがパンクしてまっ平になっている。君の車のタイヤがパンク寸前だから直してあげるよ。今すぐ車を道路脇に止めよ!」としつこく何回も近接して来た。英語が全く分からない振りをして運転し続けて、相手が諦めるのを待った。怖い数分間だった。


 家に戻ってタイヤを調べたが、フラットでもなんでもなかった。

「あの二人組はどういう魂胆であんなことを言い続けていたのだろうか?」

 想像しただけで、真奈は震えを覚えた。


 駐車場で、

「香水の匂いを嗅がないか?」と聞いてきた人もいた。それには眠り薬が入っていて、眠っている間に金目のものを取り去る手口があることを知っていた真奈。昔取った杵柄。演技で難を逃れようと決意。狂った人のごとくに口を大きく開けて、「ワー、ワー」と変な声を出してその人に迫った。流石の犯罪人も、気味が悪くなったのか諦めてくれて、危機を逃れることができた。


 真奈は、演技をしている間も心臓がドキドキして怖かったのをよく覚えている。高鳴る自分の鼓動を聞きながらも、我が身を犯罪から守ることができたのだった。

 

 全く知らない隣の車の運転手がニコニコ顔をして、"Remember me?"

 と、まるで昔から知っている友でもあるかの如くに振る舞うことでこちらの車を止めようとしたなどということもあった。

「もし、車を止めて、ピストルを突きつけられたらどうしよう?」

 ここでも心臓がドキドキと高音をあげていた。


 同じようなことをされた女性が殺されたことを知っていたから、絶対に車を止めるようなことはしなかった。完全に無視するのが一番だ。


 行きた心地のしない毎日が続いた。


To be continued...

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