第42話 褒める文化と改善を求める文化
アメリカの文化は、褒める文化である。
娘のユナが、80%ぐらい正解だったテストでも、返ってきたペーパーを見ると、そこら中に「素晴らしい!」「ファンタスティック」と、先生からの褒め言葉が並んでいる。
減点主義の日本で育った真奈は、テストで80点を取ってそんなに褒められたことはなかった。褒めの盛んなアメリカでもう一度子供時代を送りたいと思うほどだった。
日本では、80点を褒めるより、
「なぜ残りの20点が取れなかったのか?」
そっちの方を考えさせられた。その精神こそが、いまや米国でも自動車産業界用語の一つとしてよく使われている「KAIZEN」という言葉の語源であろう。
どんなに完璧そうに見える状態でも、よく観察すればどこかに必ず向上できる余地があるというわけだ。
その頃、日米の車は、そういった文化の違いによる教育のあり方が影響しているのではないかと思えるぐらいの差があった。
真奈は、80%で満足する人々によって作られた車より、120%を目指す人々によって作られた車の方を選んだ。
車の街に住んでいるアメリカ人の中でも、彼女と同じように考え、
「僕はどこの国の車ということより、問題なく走れる車を買うよ」と断言していた人も結構な数存在していた。
もちろん、デトロイトも負けてはいなかった。日本車のお陰で、同等の品質にまで追いつき、更には追い越そうとエンジニア達は頭をひねっている。
そういう意味では、日本からのチャレンジはデトロイトにとって必要なことであったと考えるアメリカ人もデトロイトの自動車業界のトップの中にも多く見られた。
実際、彼らは通訳である真奈に言ってくれた。
「マナさん、新聞とかで色々と騒がれてはいますが、デトロイトの人が皆日本人を恨んでいるなどと思わないでくださいね」
真奈は、会議通訳をすることでそういったアメリカ人の公平さを目の当たりに見ることができたことが嬉しかった。
To be continued...
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