第30話 聞く文化と話す文化の違い?

 グループが希望する所ならどこへでも付いて行くのが通訳兼ガイドの役目。


 ガイドとしての知識はどうだったのだろうか?グループによっては、幾つもの市を訪れる客も多かった。ほとんどの地は真奈自身行ったこともない地であった。


 そんな折、学生時代試験前の勉強法であった一夜漬けが大変役に立った。毎回前もってグループの行き先を調べては一夜漬けの勉強を実施。その地の人口、主な産業、その地出身の有名人の名、こぼれ話など・・・次々と暗記していった。全部覚えられない時には手のひらに入るぐらいのメモも用意した。短い説明の後は面白おかしく客をエンターテインすることの方がメインだったからだ。そうやってうまくツアーを成功させることができた。


 訪問先すべての詳細なる説明ができたために、真奈のそんな苦労を知らない客たちは至極感嘆の声を漏らした。


「いろんなところのことを良く知っているガイドさんだねー!」

「これまで何人かのガイドさんに会ったけれど、こんなに知識豊富なガイドさんは初めてだよ!」


 それらの言葉を耳にした真奈は、一夜漬けの効果を目の当たりにしてニンマリと笑顔を浮かべたのだった。


 ただ、アメリカ人のツアー・グループのガイドが足りなかった日、上司からアメリカ人のツアーガイドを頼まれてしまったことがあった。

「いつも日本語でやっていると同じことを英語でやれば良い。それだけだよ。」

 と、いとも簡単なことのように言われてアメリカ人のグループを引き受けてしまった。


 ところが、アメリカ人のツアーは日本人のツアーと全く違っていた。日本人の客は聞き手に廻ることに慣れているから話をし易い。アメリカ人客の場合はといえばどうだろう?まぁよく喋ること・・・。こちらが何か一言でも言おうものなら、その10倍以上の言葉が返って来る。まるで彼らがガイドになってしまったかのような勢いで喋りが止まらない人も結構の数いた。


 真奈はその人たちにコントロールされないように必死でマイクを握って彼らに負けない早口で英語を話す。まるで早口競争のような状態になって、それをずっとやった後はグッタリと疲れてしまった。聞く文化と話す文化の違いだろうか?


 オフィスに戻った時オフィスの皆が、

「アメリカ人のグループはどうだったかい?」

 と聞いてきた。

「日本人の私は日本人のガイドに徹している方がいいでしょう」

 と、悔しいかな、そう言わざるを得なかった。


To be continued...

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