第29話 アメリカでツアーガイドになる重要な条件とは?

 働ける日本人の少ないデトロイトで不足していたのは日本人通訳だけではなかった。日本からテクニカル・ツアーでやって来たビジネスマンたちと一緒にバスに乗って日本語でデトロイトの案内ができる日本人ガイドが何人も必要となっていた。


 しかし、ガイドも日本語ができれば誰でもできるという仕事ではなかった。だいいち、平気で人前で話せる人でないとできないため、よっぽどお金に困っていない限りやりたいと思う人自体あまりいなかったのだ。


 それだけに、日本からのグループが増えるにつれて、真奈自らも仕方なくガイドとして出て行かなくてはならない日が相次いだ。


 インターネットのなかった時代だけに、彼女はガイドをする数日前にはダウンタウンのデトロイト商工会議所まで運転して行って資料を揃えて、中身を丸暗記した。


 これも、ドキドキする胸を気にしながら初めてガイドとして観光バスに乗り、日本人ビジネスマン40人以上の前に立ってマイクを握った真奈。


 覚えたことを忘れないようにと必死でデトロイトの歴史を語っていた。


 ところが、聞いてくれていた筈のビジネスマンたちを見渡すと、何と皆時差ボケかグーグーと眠ってしまっているではないか!


 起きていたのは私のまん前に座っていた添乗員のみ。ショックに満ちた真奈の顔を見て添乗員は彼女の耳に囁いた。


「ねぇ、君、もしかして、ガイドしたの今日が初めてじゃないの?」

「え、わかりました?何で?」


「わかるよ。だってさ、高校の歴史の授業でも聞いているみたいだったもの。ガイドはもっと面白可笑しくエンターテインしてあげなくっちゃ、皆寝てしまうよ」


 その時の真奈には、このベテラン添乗員のアドバイスほど適切なアドバイスはなかった。一生忘れられない貴重なアドバイスとなった。


 それ以来、真奈はまるで漫才師にでもなったように面白可笑しいガイドをして皆を笑わせて、楽しい気分にさせることにフォーカスした。劇団で使っていた演技も役に立った。調子に乗って来ると、下手くそな歌までバスの中で歌ってみせることさえできるようになったのだった。


To be continued...

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