第20話 忌まわしいLとR

 LとRはただの文字。何がそんなに忌まわしいのか?


 英語で苦労した人ならわかるであろう。


 真奈が短大の英文科にいた時に、ユニークな「ら・り・る・れ・ろ」のお陰で日本人は英語のLとRの発音がうまくできないということで、クラス全員がLとRの特訓を受けたことがあった。その成果あってか、彼女はアメリカで英語の世界で生活していても大抵の場合、LとRの違いは見分けられた。


 しかし、日本から来たばかりのエンジニアたちはエンジニアリングのことでは大変優秀だが、そういった言語の訓練を受けている人は少なかった。


 近年、日本の若いエンジニアの中にはある程度なら英語もこなせる人が多くなってきた。通訳を使っている会議でも、話がとてもテクニカルになると通訳を通すのがもどかしくなって、直接カタコト英語で米人とやり取りを始めることが多々ある。


 実際に真奈が経験した愉快なエピソード3つ。


エピソード1

 あるオートパーツの会社での会議中、日本人エンジニアは、

「これには錆が付き過ぎています。」と英語で言ったつもりでいた。


 しかし、あの忌まわしいLとRのために、彼が日本人的発音で実際に言ったのは、

”This has too much lust. ”

 英語で錆はrustであって、Lを使うとlust, つまり彼は、

「性的欲望があり過ぎます!」と言っていることになってしまったのだ。


 米人たちは

「え?」

 と言った顔で真奈の方を見た。


 皆がポカンとして反応がなかったため、日本人のエンジニアは更に声を上げて、

"Too much lust is no good!(性的欲望が多過ぎると困ります!)"と叫んだものだから、そこにいた米人たちはブーと飲みかけていたコーヒーを口から吹き出してしまった。


 真奈が慌てて日本人エンジニアに説明をすると、可哀想なエンジニアは、

「えー?そんな風に聞こえていたんですか?恥ずかしい!」と顔を真っ赤にした。


エピソード2

 アメリカの職場で大統領選の話が出ることは珍しくない。市民権を持っていない日本人は投票できない。しかし、そればかりではない。ちゃんとLとRの発音の違いができるようになるまで選挙の話は避けた方が無難である。


なぜなら、選挙はLだったっけ?それともR?と混乱して、万が一、Rの方で発音してしまうと、なんと男性の「勃起」の意味になってしまうからだ。


 実際、大統領選に出馬したあのマッカーサー最高司令官を励まそうと日本人が空港で掲げたサインが良かった。


ここでも、あの忌まわしいLとRを反対にしてしまったのだ。

「選挙がうまく行きますように」と書いたつもりが、何ともう一方のスペルになっていたという。


 どうしても米人との選挙の話に加わりたい人は、electionとLでクリアーに発音する自信が付いてからにしよう。


エピソード3

 車のクラッチの故障で、ある日本人駐在員の奥さんがオートメカニックに自分で電話をいれたまでは良かったのだが、彼女もLとRを混乱したのか、クラッチをLで発音せずにRっぽく発音してしまったから大変だ。これはcrotch(股間)に聞こえてしまっていた。


 つまり、奥さんが、

「私の股の間がちょっと変なんですけど、直せます?」

と言ってしまったことになる。


驚いたメカニックは、

「奥様、番号を間違えられたのでは?」

 と答えるのが精一杯だったらしい。


To be continued...

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