第16話 友情にはいろいろな形がある
友情というのは常に一緒に電話し合ったり、一緒にご飯を食べたりしている人たちとの間にだけ存在すると思っている人がいないだろうか。過去にいろいろと助けてくれた人々のことを思いやる時、真奈は、友情をもっと広い意味で考えてみたいと思う。そこに国境はなかった。
一緒に仕事をした人たちとのその時期だけに限られていた短い、しかし、意味の深い友情を懐かしく思い出す。
アメリカで免許を取ったはいいものの、真奈は長い間高速道路を運転することを避けていた。
ミシガン州の高速での制限速度は75マイル(120.701キロ)である。ノースカロライナのような南部に来ると70マイルに下がるのでちょっとホッとするが・・・。制限速度が75マイルのミシガンの場合は、ポリスが近くにいないとなると、多くの人が80とか、時には90マイルを出して飛ぶように運転しているからだ。しかも、寒いミシガンは冬になると高速のあちこちが凍る。誰かが一つ間違えば、大事故が起きる可能性を常に秘めている。そういった恐怖心から高速での運転を恐れていたのだ。
また、まだGPSが発達していない頃で、高速で一つ出口を間違えるとずいぶん長い距離を行かないと次の出口がないことがある。夜の道で迷うことも懸念された。
ところが、彼女が旅行会社に勤め始めた途端、どこへでも高速を使って自分で運転して行かなくてはならない状況に陥り困っていた。
そんな真奈の様子を見た旅行会社の運転手たち。皆が交代で彼女を高速道路まで連れ出して、高速で運転する勇気を与えようとしてくれた。
練習に会社のバンを使ったのはまずかったかもしれないが、彼らは恐れることなく助手席に座って応援してくれた。
"Mana, forget your Japanese manners and just merge! (日本人としての譲り合う礼儀は一時忘れて、高速にはサッと入り込むんだよ!)"
"That's it, Mana!"
"You can do it!"
自分たちの命を全て真奈の手に預けて助けてくれたことは驚きだった。うまく高速での運転ができてオフィスに戻った時には、全員大喜びで手を叩いて褒めてくれた。
高速での運転の恐怖を取り除いてくれた仲間たちは、白人、黒人、メキシコ人と様々だった。
皆して、
「マナの高速恐怖症を取り除く」という一つの目的に向かって団結していた。そこには、人種や生まれの違いなど関係ない愛があった。
誰一人として、
「あの人は黒人だ」とか、
「あの人はメキシコ人だ」とか、
「あの人は日本人だ」 とか、そんなことを気にしている人はいなかった。
皆、同じ人間として、真奈が高速でも平気で運転できるようになるという、それだけをゴールとして神経を集中し、彼らの顔も紅潮していた。
彼らは、近くに住んでずっと連絡を取り続けるような友人であったわけではなかったが、そこには、あの瞬間を共にしたことによる紛れもない友情が生まれていた。
そういった彼らが今頃どうしているのか?連絡の方法すらない。
今、アメリカという国が政治的目的で分裂されそうになっている中、真奈はあの時一時的に団結することで楽しんだ、輝くような友情を一生忘れることができない。
To be continued...
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