第12話

スパイの仕事?


 ある時など、以前真奈が通訳の仕事をしたことのあるアメリカの会社から電話が入ったのだが、今回に限り真奈ではなく、日本語が少し理解できる米人の夫の方に来て欲しいと言う奇妙なリクエストが入った。


 変だと思いつつも、真奈に代わって夫のマイケルが初めて通訳(?)として出て行った。一日その会社にいて戻ってきた夫にその日の様子を聞いた真奈は驚いて言葉を失ってしまうほどだった。


 なんと、会議通訳ではなしに、その会社の一員の振りをしてただ黙って座っていて、訪問に来ている日本人がひそひそと日本語で囁き始めた時に、その内容が何なのかを会議の後で米人側にそっと伝えることが仕事だったと言うのだ。結局、スパイになれと言われたようなものだ。


 それで、夫は「ジョーンズ」とかいう仮名で紹介された後、日本語が全くわからないような振りをして、じっとそこでの日米間の会話を聞いていたらしい。


 すると、突然日本人たちがひそひそ話を始めた。


「来たぞ!」

 と、マイケルが耳をそば立てて聞いていると、

とても太った米人を見て、なんと日本人の一人が、


「やはり、あれだけ体が大きい人は男として持つものも大きいのでしょうかね」

 と言ったと言う。


 その会社の米人たちは、咄嗟に何かビジネスに関することで日本人たちがひそひそと話し込んでいるとばかり思い込んでいた。


 それだけに、日本人たちが帰った後、


「さぁ、何を言っていたのかね?」

 と、興味津々だった。


 ビジネスとは全く関係ない冗談発言だったと聞いて皆で大笑いして夫の任務は終了したと言う。


 真奈には信じられない話だった。


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