第9話 発音の直し方
会社社長のミスター・スミスは時々授業の後にランチをご馳走してくれた。スミス氏はジェントルマンらしく、いつも車のドアを開けてくれた。
フカフカ絨毯の敷かれた車を見渡すと、Cadillacという文字が目に入った。
今ではなんということのないキャデラックも、その頃の真奈にはまだ目新しく、
「ヒェー、あのキャデラックに今現実に乗っているんだー。こら、あほ、みっともないぞ。落ち着いて!落ち着いて!」
日本人のガールフレンドがいるというロン。日本語を覚えれば、少しでも彼女を理解できるだろうという心構えだけは素晴しいのだが、彼の舌は短か過ぎるのではないだろうかと疑うぐらい日本語の発音ができない。
どうしても「ワタークシハー」というふうに激しい強弱が付いてしまう。
ある時、どうしても日本語の「箱」という発音ができずに、「ヒャコ」となってしまうことがあった。「ハコ」は、メキシコ料理の「タコス」の発音に似ていると気付いた真奈は、
「(タコス)と発音する調子で(ハコ)と言ってみて下さい」とロンに提案してみた。
「タコス」・・・
「ハコス」・・・
「ハコ!」
「やったー」
ついに言えた!
やれやれと共に喜んだ生徒と先生だったが、その翌日教室に入って来たロンに、
「ロンさん、ボックスは日本語で何でしたっけ?」と、真奈が聞くと、ロンは顔面全体に笑みを浮かべて、「タコス!」と得意そうに大きな声で答えたのだった。
その後、なぜかロンは日本語の授業に顔を出さなくなってしまった。
To be continued...
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