第8話

日本語は難しい・・・


 日本とアメリカは言語も文化も全く違っているという事実を米人に理解してもらうことが意思疎通の第一歩である筈なのだが・・・。


 ある時、真奈の教室の前を通ったスペイン語の教師は、真奈の部屋の中で禁止されていた筈の英語が話されていたのを聞いて、これはルール違反だとばかりに即マネジャーに告げ口した。真奈は早速マネジャーの部屋に呼び出された。


「君は教室で英語を話しているそうだね」


「はい、全て日本語だと生徒は何が何だかさっぱり分からなくて困っているので、休み時間の間だけは英語を話してもいいということにしました。」


「何を言っているんだね!休み時間こそ習った日本語を使ってお喋りする絶好のチャンスではないか。生徒と一緒に日本語でジョークを言ったりしてリラックスしたまえ」


「ちょっと待ってくださいよ」


 このマネジャーは日本語と英語の関係がスペイン語と英語の関係とはまるっきり違っていることが全然分かっていないと悟った真奈は、ある程度のレベルに達するまでは生徒たちが日本語でジョークを飛ばすことなど不可能に近いことを説明しようとした。


 ところが、4つのヨーロッパ語をこなすと豪語するマネジャーは、


「ギリシャ語でもイタリア語でも日本語でも、ジョークはジョークだ。不可能なことは何もない」

 と、ピントのはずれたことを口にして譲らない。


 困り果てた真奈は、英語圏の中にいる人がいきなり日本語だけで話しかけられたらどんな感じがするのかをこのマネジャーにも味合わせてみるしか彼を納得させる方法はないと見て提案した。


「マネジャーさん、私が今から日本語で話しかけますから、私の生徒になったつもりで聞いてみて下さい」


 ところが、次にそのマネジャーが口にしたことは信じ難いものだった。


「マナ、それは無理な注文というものですよ。なぜなら、私は日本語を話せないのですから・・・」


「そうそう、だからこそ、それがどんな感じか見てもらいたいのですよ。」


「ゴメンナサイ。僕は日本語はとても・・・」


「ギャー、この人あほかいな?」


 東京育ちだが関西出身の両親を持つ真奈は、本音を吐く時によく関西弁が出る。


 結局、こちらの意図していることが全然伝わらないもどかしさに舌を噛むより他に方法はなかった。


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