俺の許嫁は最高に可愛い。でも、時々嫉妬深い……

八雲玲夜

これが青春なのかな……

 俺の通う高校にはそこそこ有名人がいる

「神崎さんだ……」

「孤高のお姫様、今日も美しい……」

 それが彼女、神崎ミサキ。

 容姿端麗成績優秀であり、誰ともつるまない孤高のお姫様である。

 そんな彼女だが実のところ彼女自身、周りの人とは仲良く話したいと思っているのだ。

 なんで俺がそんなことを知っているかって?

 それは……

「みなと〜今日も疲れた〜」

「今日も一日お疲れさま、ミサキ」

「えへへっ」

 俺の名前は一ノ瀬水斗。今目の前で甘えている神崎ミサキの同級生であり幼馴染だ。

 なんで俺とミサキが一緒の家にいるのか、その理由は俺とミサキが許嫁だからだ。

 なんで孤高のお姫様であるミサキと俺が許嫁なのかというとそれにはわけがある……


 幼馴染だったからというのもあるがそれだけで許嫁はどうなのかっていうのももちろん間違っていないが、一番の原因は双方の親にある。

 俺とミサキの親は昔から面識があり仲がものすごく良かった。そのため将来自分たちの子供が男女だったら結婚させようという俺からしたらいい迷惑な話だが結果的に親の強い主張のまま押し切られてしまい半強制的に許嫁になったのだ。

 別にミサキとの許嫁が嫌というわけではない嫌なのは親が週一で「状況報告だ!!」と言い電話を入れてくるのがたまらなく嫌だった。親の勝手なタイミングで電話してくるので非常に厄介だ。

 だがさっきも言った通り半強制だ。あとからわかった話なのだがこの許嫁の話を真っ先に了承したのはミサキだそうだ。なぜかは俺は聞かされていないがミサキの親が本人に話を持ちかけたときに今までに見たことのないくらいの興味を示したそうだ。

 理由はよくわからない。


「みなとどこいくの……?」

「自分の部屋、本を取り入って来るんだよ」

「私も行く……」

「ここで大人しくしてて」

「むぅ~……」

「みなと今度はどこいくの……?」

「ちょっと飲み物を取りに」

「私も……」

「はい、大人しくしてような」

「むぅ~……」

 と、まぁこんな感じで毎日のようにミサキは俺に甘えてきている。

 話の前後があやふやになると思うが、これがミサキの平常運転なのだ。

 ミサキは昔から極度の人見知りでなかなか人との会話がうまく行ったり行かなかったりしている。

 そのためミサキは一人でいることが多く学校でも基本的に誰ともつるむことがない。だがそれを学校の生徒達は孤高のお姫様だといい近づくことすら恐れ多いと言ってなかなか話しかけてくれる人は少ないのだ。

「ミサキここで寝るなよ?」

「なんで〜……?」

「風引くからに決まってるだろ」

「引かない、みなとが一緒だから」

 と言いほぼ毎日のように俺があぐらをかいて本を読んでいるとそこにうつ伏せで寝っ転がって来るのだ。

 男子からしたら羨ましがられること間違い無しのそのシチュエーションがほぼ毎日のように起きている。

 それぞれの部屋があるにはあるが馬鹿な親いわく別々の場所で寝ていたら許嫁の意味がないと言って大事な用事があるとき以外は基本的に1階にで生活するようにとのことだ。

 あのバカ親。何考えてんだ。

 とはいえ俺自身その決まりに抵抗はなかった。


 ある日事件は起きた……

「ごめんね〜手伝ってもらって」

「別にいいよ、気にしなくて」

「水斗くんは優しいよね〜こうやって困ってる人を助けてくれるし」

「当然のことをしてるだけなんだけどな」

「そうやって当たり前のことだって言って引き受けてくれるところとか女子から人気なんだよ〜!」

「そうか?」

「そうだよ〜よ! このモテ男!」

「やめろ」

 昼休み担任の先生から頼まれごとを引き受けクラスの女子と荷物を運んでいたら何気に女子から人気だと言われからかわれた俺は軽く否定しておきながら頼まれた場所まで荷物を運び終えた。

 その女子いわく俺はクラス……いや学年の中の女子からそこそこの人気があるそうだ。

 理由はよくわからないが、軽くあるとすれば誰にでも優しく女子が困っていたら何気なく助けてくれるところがかっこよくて素敵なのだという。俺自身困っている人を助けることは当たり前なことなのでそれがかっこいいことなのかは正直言ってよくわからない。

 でも、言われて嫌な気はしないのは確かだ。

 その後何事もなく家に帰宅するといつものようにミサキが小走りで抱きついてきた。

「ただいまミサキ」

「……」

「どうした? 黙り込んで」

 いつもなら「おかえりみなと〜」か「みなと〜今日も疲れた〜」と、言ってくるのだが今日はなぜか何も言わずにただ抱きついているだけだ。

 そして一向に離れる気配がないし、なぜか力が強まってる気がする。

「あの……いい加減離してもらえないか……?」

「いやだ……」

「えぇ……」

 まさかの拒否られてしまった。

 流石にいつまでも玄関先で抱きつかれていたら自分の部屋で着替えようにも着替えられないので多少困惑しつつ仕方なくミサキの肩を叩いて離れるように促してみる。

「ほら、このままじゃ俺動けないし着替えられないから」

「いやだ……離れたくない……」

「後でかまってやるから」

「今がいい……」

(まじかよ……)

 なにかおかしい時々こんなふう離れたくないと言って離れないことはあるが大体肩をたたいて離れさせるか横腹を突っつけば簡単に離してくれるのだが、今日はどうにも離れてくれない。

「わかった、とりまここだとあれだから一旦リビング行こうか」

「ん……」

 と、頷くとミサキは抱きつくのをやめ離れたと思ったのだがどこか悲しそうな表情をしていた。

 それほどまでに離れたくないみたいだ。

「ハァー……わかったよ、ほら掴まってろ」

「うん……」

 仕方なく俺はミサキのことを半お姫様抱っこ状態でリビングまで運んだ。

 一瞬ミサキの顔が赤くなっているのが見えたような気がしたが気にしないことにした。

 リビングにある少し大きめなソファーにミサキをおろし、俺は「じゃぁ着替えに行ってくるからすこし待ってろ」と言い自室に着替えに向かった。

 内心今日のミサキの異常なくらいの執着に疑問をいだきつつ、ミサキを待たせないように早めに着替えて1階のリビングに向かった。

「おまたせ」

「うん……」

「……どうした? 今日はやけにくっついてくるけど」

 ここ最近甘えてくることはあったが今日は明らかにおかしい。離れるように促しても一向に離れないしいつものように元気がない。

「みなとくん、今日昼休み何してたの?」

「なにしてたのって……普通に先生からの頼み事引き受けてただけだけど……?」

「他には……? 他にはなにしてたの?」

「なんもしてないって、その後普通に教室に戻ったし」

「嘘……! だってみなとくんクラスの女子と一緒に歩いてたじゃない……!」

 突然ミサキの態度が急変し半泣きになっていたので俺はすこしビビってしまった。

「もういい……みなとも私から離れるんだ……」

「おいっ……! どこ行くんだよ……!」

「話しかけないで!」

 ミサキはそのまま二階に上がり自分の部屋へと入りバタンッ!!と音を立てて閉めた。

 ミサキから怒りを向けられ困惑した。今までに見たことのない反応をされ俺は何がなんだかわからなくなった。

 自分では何かしらの地雷を踏んだ気はしているが一体何が地雷だったのかは分からなかった。だから話の内容を遡って考えた。


 翌日朝起きるとミサキは先に家を出ていた。普段はミサキが水斗を起こして二人で朝食をした後に時間をずらして家を出るのだが今日はミサキは何も言わずに一人で家をでて学校に行ってしまった。

 その日以来ミサキとは学校で会うことも度々あるが明らかに避けられるようになった。

 それは家でも……

 「あ、ミサキただい……」

「おかえり……」

「お……おぅ……」

 とまぁ色々なところでミサキから冷たい態度を取られるようになってしまった。

 これでは孤高のお姫様どころか『氷の女王』である。

 なんとかしなければいけないと思い一週間に一回電話を入れてくるバカ親に電話してみた。

「なんか最近ミサキから避けられるんだけど」

『あんたミサキちゃんになんかしたんじゃないでしょうね?」

「なんもしてねえよ」

『じゃあなんでミサキちゃんが水斗くんを避けるのよ』

 この日は双方の父親が飲み会で出かけていたらしく電話に出たのは母親の方だった。

「わからない、怒ってる理由を聞こうにも避けられるし」

『どうにかしてミサキちゃんと話しなさい? それでちゃんと仲直りできたらまた連絡ちょうだい、それまで電話はしないであげるから』

「ありがとう母さん」

『そうね、二人の時間も必要よね、早く仲直りできるように頑張ってね水斗くん』

「ありがとうございます、頑張ります」

 二人にお礼を言うと水斗は通話を切った。

 そして少し考え込むとなにか見落としていたものが見えてくる気がした。なぜかはわからない。でも、段々とミサキが何に対して怒っていたのかがわかってきた。

「もしかして……」

 そして確信に変わった。

 攻略法は唯一つ俺がミサキと関わらなければいいだけだ。

 一見矛盾しているように聞こえるかもしれないがそれでいい。今までのミサキの行動と俺に対しての感情表現を見ていれば自ずと結果が見えてくる。

 その翌日の夕方、俺はいつものように1階のリビングで本を読んでいた。

 この日、俺は初めてミサキと会話も挨拶もかわさないようにした。そうした事によりミサキが取る行動が一つだという確信があったからだ。

 そのまま本を読み続けているとそこにミサキがやってきた。

 そのまま水斗の足の上に座るとうつ伏せでいつものように寝っ転がってきた。

「どうした? もう話さないんじゃなかったのか?」

「うん……」

 しばし沈黙が続いた。

 決して俺から声を発しては行けないと思った。だから何も言わなかった。

 ミサキが何を思っているのかを知るためにはミサキの方から口を開いてくれるのを待つしかない。そうしなければ意味がないのだ。俺が初めてミサキと口を利かずに多少なりともギスギスした空気が家中を漂ったとしても、どれだけ苦しい思いをしたしても、俺が本人を傷つけてしまったことにかわりはない。だからこそ黙っていようミサキが自分で自分の口から思いを伝えてくれるまで。

 そしてミサキが抱きついてきてから早く5分が経とうとしていた。周りからしたら短いように聞こえるかもしれないが、俺達からしたらこの5分というのは今までの時間よりも長く感じるものである。

 それほどまでに沈黙を続けたことがなかったからだ。

「私ね……つらかった……」

 おもむろにミサキが口を開いた。

「ずっとこのままになるんじゃないかって……このまま仲違いして分かれるんじゃないかって……」

「……」

 俺は沈黙を貫いた。

 ここで口を開くのは間違いだと思ったから。ひたすら本を見続けた。本に穴が開くくらい。

 自分の服がミサキの涙で濡れている感覚があった。じわじわとゆっくり広がっていくのを感じた。

「こんなにみなとと話せないのがつらいなんて思わなかった……」

「……」

「どうしても仲直りしたかったけど、全然話しかけられなかった……」

 ミサキは少しずつ話してくれた。少しずつ、少しずつ思いの縁を語り始めた。

 俺は黙って聞いている。

 そしてミサキが限界に達した。話せなくなった。わんわん泣いた。服が濡れていようが関係なかった。

「もういい……悪い、つらい思いをさせた」

「ごめんね、みなと……」

「あぁ、」

「私みなとを信じられなかった、みなとが他の女の子と話してるのが嫌で、みなとを遠ざけちゃった……」

「大丈夫だよ、他の女子と話しても俺はミサキ以外を好きには絶対にならない」

 俺はミサキが何を思っていたのかずっと俺のことだけを思っていてくれたことを改めて知った。

「私もみなとのこと以外の人なんか好きにならない……!」

「アハハッそっか……」

 そして俺はミサキの気が済むまで抱いて頭を撫で続けた。

 そのあと俺たちは遅めの夕食を取った。

 そして前みたいに仲良く寄り添って寝たのだった。

 約二週間。時間に変換すると336時間の喧嘩に幕を閉じた。実に長い喧嘩だったような短いような期間だった。

 その後母親に仲直りしたことを伝えると、「良かったわね」と、一言だけ言いそれからというもの向こうから電話がかかってくることはなくなった。どうやらもう心配する必要がなくなったみたいだ。

 そして家では今まで以上にミサキは俺に甘えてくるようになり、一日2時間甘やかすという約束をミサキと交わした。

 俺としてはミサキのかわいい姿が見られるならそれでいいと思っている。

 そして学校では……

「水斗く〜ん、ちょっと手伝ってくれない?」

「ああ、もちろん」

「ありがとう!」

 俺は毎度同じく荷物運びの手伝いを任された。

 そこに一人の女子生徒が小走りで迫ってくる。そして、ガシッ!と俺の腕を掴むと頬を赤らめながらこういった。

「みなとは私のものなんだから……!」

「……おっ!?」

「え?!」

 段々とミサキの顔が真っ赤に染まっていく。

「ちょっと待って……!! なになに?! ミサキちゃんと水斗くんってそういう関係なの?!」

「え? なになに?」

 とその騒ぎを聞いていた周りの生徒達が段々と近づいてきた。

「え……いや、その……」

「あーぁ……」

「えー?! もっと話聞かせてよー!」

「えっと……その……」

 ミサキが困るが他の女子には関係ない。そりゃあそうだ、今まで孤高のお姫様と呼ばれていた人にそういう関係の人がいたんて分かれば頭の中お花畑の女子生徒たちはこぞって食らいつくに違いない。

「うぅぅっ……! みなと〜……! 助けて〜……!」

「アハハッ」

 俺は笑った、ミサキの助けを求める声が廊下に響いた。

 その後ミサキを中心に女子たちが友だちになり始めた。段々と孤高のお姫様という名も薄れていき、今ではミサキは俺のクラスのマスコットだ。

 俺としてはまぁ多少なりとも違った意味でミサキに人間関係がうまく言ったことに内心嬉しかった。その反面新たなミサキの一面を見た男子たちが告白しようとしたがどうやらミサキを守る最恐のボディーガードがいるとかいないとかで告白してくる人の数は減少していっている。

「ミサキ、今日は何したい?」

「なんでもいい……みなととなら何しても楽しいから!」

「俺も、ミサキとなら何やっても楽しいよ」

 ずっと一緒にいるさ。だってこんなかわいい人はこの世で他にいない。

 俺たちを引き合わせてくれた両親にも感謝だ。


 これはあの喧嘩の後にわかったことだけど……

 実はミサキが俺を好きになったのは小学校に入りたての頃だったらしい。

 それまでミサキは俺に対しても人見知りを発動させており話せる状態じゃなかったらしく俺もあまり話したことはなかった。

 でもそんなある日、小学校に入学してまもなく経ったときミサキはなかなかクラスに馴染めずにいたとき同じクラスのやんちゃな奴らに絡まれいじめを受けていたことがあった。

 それを守ったのが俺だった。ミサキをいじめていた奴ら以上のいたずらをしてクラスの笑いものにしたり親の力を使って懇談会の日に間違った映像を流したなどと言ってそいつらのいじめている映像を流したりなど、色々なことをしてミサキを守った。

 それが許されていたかどうかは想像に任せる。一つ言えるのは俺も昔から大の悪ガキだということだ。

 仕方のないことだ。ミサキを不登校に追い込んだくらいだ、これくらいやらないと気がすまない。それでミサキが笑って学校生活を遅れるなら問題ない。

 だがそれはあらぬ方向に行ってしまったようだけどな。ミサキは俺にだけくっつくようになってしまった。

 そのため俺以外の人と仲良くするつもりはないらしく何やるにしても俺が一緒にいないとやらないという状態になってしまった。

 それをみて親は何を勘違いしたのやら。

「おおっ!! ミサキちゃんが水斗に完全に惚れたぞ!!」

「これはもう許嫁決定だな!!」

 などと、訳のわからんことを言って盛り上がったのだった。

 それからというもの高校に上がると同時にミサキと許嫁になったのだが……さすがに許嫁のことが周りに知られるとまずいと思った俺は高校ではミサキに「幼馴染でそれ以上の関係ではないってことにしよう」と持ちかけた。

 ミサキはそれをすんなり了承したがその代わりに家ではたくさん甘えるという条件を出した。

 俺はそれをしかたなく受け入れた。

 とは言ってもミサキは人見知りが治っておらず学校では『孤高のお姫様』と呼ばれるようになったのだった。

 俺も学校では一旦許嫁のことは忘れてのびのびと学校生活をエンジョイした。帰ればかわいい許嫁の彼女が待っているのだから。

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俺の許嫁は最高に可愛い。でも、時々嫉妬深い…… 八雲玲夜 @Lazyfox_07

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