第16話 材料は揃った
「俺が真犯人を見つけてやる。それで俺の無実を証明してやるよ」
突如起こった女子風呂の覗きと下着紛失の事件。
女子は俺がやったと決めつけているが、無実だといくら言っても聞く耳を持たない。
だったら俺が真犯人を見つける他なかった。
「へー。もし見つけられなかったらどうするつもり?」
一人が鎌をかけた。
「見つけられなかったら? その時は俺が罪を被ってやる」
「罪を被る? 具体的にどうするつもりなのか教えてよ」
女子たちは俺の言葉を待つ。
完全に言わせようとしている。というよりも言う他ないくらい俺には逃げ道がなかった。
「その時は……一人ずつ誠意を込めて謝罪させてもらう。それでいいだろ?」
「足りないわね!」
若草が言い切ったことにより全員の注目を集めた。
「謝罪で済ませようって言うの? 甘いわよ。峯岸、犯人を見つけられなかったら学校を去りなさい」
「それって自主退学しろってことか?」
「当然。一度目は多めに見てもらったようだけど、二度目は許されない。それくらいの覚悟はあるんでしょうね?」
「分かった。それでいいよ」
「言ったわね。ならバスが出発する正午までに犯人を見つけられなかったら退学よ。いいわね?」
「あぁ、分かった」
タイムリミットはおよそ四時間。そこまで時間はない。
だが、それでも探し出すしかない。それが俺の定めであるから。
とは言っても一体、誰の仕業だろうか。
また若草が俺をハメようとしている?
いや、あいつらは女子が風呂に入っている時間は穴の中だ。
何もすることはできない。
それなら一体誰が?
そもそも下着が無くなったことと同一人物か。
俺は現場を確認することにした。
不審な点はないか、一時間くらい重点に見回りをした。
誰かが俺に罪を擦りつけようとしている?
そんな危険なリスクを負ってやることか?
そしてバスの時間まで三十分を切っていた。
「峯岸。真犯人は見つかったの?」
俺の回答をクラスの女子は待っていた。
まるで裁判所の被告人状態だ。
「で? どうなのよ、峯岸」
「真犯人は……いなかったよ」
その瞬間、女子たちは目の色が変わった。
「退学よ! 峯岸、あんたの悪運もここまでよ。さっさと学校を去りなさい!」
感情が剥き出しになった若草は吠えた。
「俺は退学しない」
「あなた、自分の発言を覆すつもり? 今更そんなこと認めないわよ」
「待てよ。犯人はいない。つまり最初から犯人なんていないってことだよ」
俺の発言で周りは騒めいた。
「今回の女子風呂の覗きも下着泥棒も勘違い。それが真相だ」
「はぁ? 何も解決になっていないんだけど?」
興奮気味の被害者に俺は的確に教える。
まず、女子風呂の覗き。
それは目の錯覚による勘違いで被害にあったと思われる女子は目が悪かった。
それにより話が大きくなったのが経緯。
そして下着の紛失。これは風により飛んでいったもので木の枝に引っかかっていた。
単純なことに大騒ぎしていた女子たちは俺に謝罪した。
「すみませんでした!」
こうして帰りのバスに乗車して無事に林間学校が終了した。
「無事に解決ができたようね」
隣向かい側に座る氷菓は言う。
「あんな単純なこと解決も何もないだろ」
「まぁ、そう仕向けたんだけどね」
「え?」
「私が女子風呂を覗くように仕向けたし、下着を風に飛ばされたようにした」
「お前の仕業か」
「私の目的は峯岸くんに女子たちを謝らせること。まずは自分の非を認める。そして峯岸くんの偏見を正す。それに尽きるわ」
「俺がトンチンカンで何もわからなかったらどうしていたんだよ」
「その時は大人しく退学してくれて結構よ」
「氷菓さん。それは無いですよ」
「まぁ、これで材料は揃った。あなたの評価は間違いなくゼロに戻ったはずよ」
「そうかな?」
「次が本番よ。成り上がり大作戦の開始が近いわね」
氷菓はどこまで計画を立てているのだろうか。
全てのシナリオは氷菓の頭の中にしかない。
だが、俺はそれに従うほかなかった。
「氷菓さん。俺、大丈夫だよね?」
「私に任せておきなさい。泥舟に乗ったつもりで」
「大船じゃないんだ」と、俺の不安はますます募るばかりである。
マイナスのレッテルからの成り上がり〜下着泥棒の冤罪で居場所を失った俺だが、氷の女神様は真実を知っている〜 タキテル @takiteru
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