第15話 事件勃発


 まさかの方法で落とし穴から抜け出した大樋たちは唇を真っ赤にしていた。

 デスソースの影響が残っていた。


「峯岸。この借りは絶対に返すわよ」


 一番キレていたのは若草である。

 女子として穴の中というのは屈辱そのものだ。

 虫はいるし、土で服や身体が汚れる。そんな状況に数時間放置されたのだ。

 気がきではないはず。


「覚えていなさい」


 そう、言い残して若草は去っていく。


「おい。伶奈?」

「トイレ! ずっと我慢していたの! それにお風呂入りたい。着替えたい。もう何もかも嫌!」


 不安がダダ漏れになり、手に負えない大樋は付き添うことしか出来なかった。

 とりあえずこの場はこれで収まった。


「フゥ。ヒヤヒヤしたけど、なんとかなったな」


 俺の額からは変な汗が吹き出ていた。


「まずまずね。峯岸くん」

 茂みから氷菓が出てきた。

「氷菓。悪い、作戦失敗だ」

「いいえ。充分過ぎるくらいよ。おかげで良い絵が撮れた」


 氷菓はビデオカメラを手に持っていた。


「本当はもう少し情けない姿にするつもりだったけど、これはこれで満足だよ」

「そう、じゃそういうことで峯岸くん。ここの穴、埋めといてね」

「え? 埋めるの?」

「当たり前でしょ。誰かが誤って落ちたら怪我をするじゃないの」

「大丈夫だよ。こんな森の中、誰も来ないって」

「やっておきなさい」

「じゃ、手伝ってよ」

「お断り。私は今から忙しいから。という訳で後はよろしく」

 そう言い残して颯爽と氷菓は行ってしまった。

「はいはい。やればいいんでしょ」


 やれやれと思いつつ、俺は一人で穴埋めをする羽目になった。

 マイナスのレッテルはそう簡単には覆せない。そう思った瞬間である。

 だが、その翌日のことだ。俺は事件に巻き込まれてしまう。






 林間学校の最終日。この日はキャンプ場で自由行動をした後にバスに乗って帰るだけのもので大きなイベントはなかった。

 だが、早朝にクラスメイトは騒めいている。

 顔を洗って荷物を取りに行こうとした時である。


「ん? 何事だ?」


 不審に思った俺はクラスメイトの中心へ行く。


「あ、峯岸よ。ねぇ、こいつじゃない? 犯人」


 一人がそう言った。


「犯人? 何のことだ?」

「昨日、女子風呂に覗きが出たのよ。おまけに下着を盗まれた」

「の、覗き? 盗まれた?」


 話をまとめるとこうだ。

 昨日の夜、女子風呂で不審な人物が窓から覗く姿を見かけたという。

 その時は動物と思ったらしく気に留めていなかったようだが、翌朝のこと。

 女子部屋に干されていた下着が無くなったというのだ。


「昨日のあれは絶対覗きよ。その人物が朝、下着を盗んだに違いないの」

「峯岸。それ、あんたでしょ。検討は付いているんだから」

「そうよ。下着泥棒の実績がある峯岸の犯行よ」


 女子から俺が覗きに下着泥棒と決めつけられた。


「ま、待てよ。証拠は? 俺がやった証拠でもあるのかよ」

「そんなことをするのはあなただけよ。峯岸。観念して白状しなさい」


 女子はこれっぽっちも信じていなかった。

 これではマイナスのマイナスになってしまう。


「だから俺じゃないって」

「じゃ、他に誰がやったっていうのよ。峯岸以外考えられないわよ」

「そうよ、そうよ。やる奴は一度ならず二度も同じことをするのよ」


 女子は白い目で俺を見ていた。

 最早、あの時の再現をされているようだった。

 だが、このまま認めるわけにはいかない。


「分かった。俺がその事件を解決してやる。それで俺の無実を証明してやるよ」


 俺は宣言した。

 林間学校中に起こってしまった女子風呂の覗きと下着の紛失。

 これは何としても俺の無実を証明しなければならない重要な案件である。

 ピンチはチャンス。これを解決したら一気に俺のマイナス評価はゼロに戻るかもしれない。

 







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