第3話 新学期

 早いもので、春休みは終わり、新学期が始まった。透子とは、時々、メッセージでやりとりをしていたが、あれ以来、顔を合わせるような事はなかった。それどころか、俺は、あの日以来、家から出ていなかった。そのため、久しぶりの登校は、イコールで久しぶりの外出なわけで、とにかく面倒だった。


 教室に着いたら、クラスメイトが久しぶりの再会なのか、あちらこちらで楽しそうに談笑をしていた。そんな中を、自分の席に向かって歩いて行き、腰を下ろす。


 ……疲れた。そう長い距離というわけではないが、久しぶりに歩くと、結構疲れる。そんな事を思いながら、机に突っ伏していると、隣から声をかけられた。


「来て早々に寝るなんて、随分とお疲れのようで。」


 夏川涼音、俺の隣の席の少女だ。うちの学校では、二年生の頃から受験を意識した、受験対策クラスというものがあり、その受験対策クラスでは二年生から三年生に上がる際のクラス替えはない。そして、俺と涼音はその受験対策クラスに所属しており、俺が唯一、このクラスで話すことの出来る人物だ。


 クラスが変わらないから、席も二年生の頃のままなのだろう。また、こいつが隣の席とは。


「逆に、涼音は元気だな。普通、久しぶりの登校とか憂鬱になるものだろ。」


「私は、いつも早起きだからねー。早起きは三文の得っていうし。」


 涼音が得意そうに言う。別に、そんな事を本気で信じている訳でもないだろうに。この前、似たような話をしたときは、朝は畑仕事があるとかなんとか言っていた。もちろん、涼音の家が農家な訳ではなく、真っ赤な嘘だ。とにかう、色々と適当な奴なのだ、こいつは。


 そんな涼音のくだらない話に付き合わされる前に、聞いておきたいことがあった。


「なあ、冬水透子って知ってるか?」


「……知ってるけど、逆に知らなかったの?」


「そんなに有名人なのか?」


「まあ、顔良し、性格良しだしねー。私なんかとは、生きてる世界が違うなー。」


 そう言う涼音も、別に顔だけでみるなら、透子に負けてないと思う。ただ、他の部分が色々と残念なだけで。


「それで、修平はどうして、そんな天上人の事を聞いてきたの?まさか、惚れたなら潔く諦めた方が良いと思うけどなー。修平じゃ無理無理。」


「余計なお世話だ。最近、その冬水透子と少しだけ話す機会があったんだよ。その時に、同じ学校だって言ってたから、本当かどうか気になっただけだ。」


「……妄想もほどほどに、ね。」


「止めろ、俺は痛い人じゃない。」


 まさか、あの日の出来事が妄想だったなんて事ないよな、と一瞬本気で考えてしまう。……いや、大丈夫なはずだ、あれから、ちょくちょく連絡も取ってるし。


「じゃあ、気まぐれな天からの糸かな?」


「蜘蛛の糸でもねーよ。」


「案外、登ってきたところをプツリといかれるかも。」


 ……否定はできない。勘違いして、学校で声をかけようものなら、人違いです、くらいは言われるかもしれない。もしくは、金髪のがたいの良い男が、俺の彼女に手出しじゃねーよ、と言ってきてぼこぼこにされるかも。


 触らぬ神に祟りなし。これ以上、透子に踏み込むべきではない。涼音の言うとおり、住む世界が違うのだろう。


「別に、透子に関わろうって気は一切ない。ただ、少し気になっただけなんだ。」


「あっそ。」


 そう言うと、涼音は俺の方を向くのを止め、前を向いた。そろそろ、先生がやってくる時間だ。


「透子、ね。」


 涼音が最後に、何かを呟いたような気がしたが、その声は小さすぎて聞き取れなかった。

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タイムカプセルを開けに行ったら中学生の頃好きだった女子と再会した件 憂木 秋平 @yuki-shuuhei

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