第2話 タイムカプセルを開けた夜
目の前の人物が、美少女というだけでも緊張するのに、それが初恋の相手となれば、なおさらだ。
俺は、できるだけ平静を装って、透子に答えた。
「……あ、あー、透子ね。な、懐かしいなー。」
……駄目だ。全く平静を装えてない。
透子は、そんな俺の態度に一瞬眉をひそめたが、特に気にした様子もなく話し始めた。
「まさか、私以外にも、ここに来る人がいると思わなかったわ。それも、まさか修平だったなんて……。」
「俺だとまずかったか?」
「気にしなくて良いわ。それより、タイムカプセルは見つかったの?」
「それが、まだなんだよ。」
「じゃあ、さっさと見つけてしまいましょう。手伝うわ。」
そう言うと、透子は、スコップを取り出し、俺が掘っていた場所の近くを掘り始めた。
俺も、それを黙って見ているわけにもいかないので、隠した草むらからスコップを取り出して、先程まで掘っていた場所を掘り返した。
透子と一緒に掘り出して三十分くらい経った頃、ようやくタイムカプセルは見つかった。
掘っている間、俺と透子は、簡単な近況報告のような会話をした。一番驚いたのは、透子が俺と同じ学校に通っているということだった。俺は、あまり交友関係が広いわけじゃないから知らなかったが、向こうは俺が同じ学校だということは知っていたらしい。
俺のタイムカプセルには手紙が入っていた。こんな自分になっていたら良いなという手紙だ。そこには、透子と付き合っているように、と書かれていた。隣に透子がいるものだから、何となく恥ずかしい気分になる。
……過去の自分には悪いけど、付き合えてはいないんだよな。それどころか、疎遠になってたなんて、何とも情けない話である。
ふと、透子のタイムカプセルには何が入っていたのか気になって尋ねてみたところ、「内緒。」とだけ返されてしまった。
これで、タイムカプセルを開けようの会は終わりである。何とも、あっけないし、大したものも入っていなかった。透子と再び会えたのは、幸運だったかもしれないが、疎遠になっていたので、どこか気まずい部分もある。
所詮こんなものか、と思い、透子に別れを告げて立ち去ろうとしたところを、呼び止められた。
「折角だから、連絡先を交換しない?」
「……良いの?」
反射的に聞いてしまう。何となく、透子とは今後もう関わることもないだろうなと思っていたからだ。
「悪いわけないでしょ。ほら、携帯を出して。」
透子の言葉に従い、連絡先を交換した。
今度こそ、別れを告げて、透子と別れる。
帰り道、まだまだ冷たい夜風に吹かれながらも、俺はどこか温かい気分だった。向こうにとっては些細な事かもしれないが、連絡先を交換できたのは、やっぱり嬉しい。
余韻を楽しむように、少しだけゆっくりと歩く。
「……行ってみるもんだな、タイムカプセル開けに。」
俺の持論は、タイムカプセルが開けられることはないというものだったが、訂正しよう。
皆が忘れて、開けられることのないタイムカプセルを開けに行ってみたら、意外と良い出会いがあるかもしれない。
その夜、透子から、おやすみ、というメッセージが来たため、色々と悩んだ挙句、こちらも、おやすみ、とだけ返した。
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