タイムカプセルを開けに行ったら中学生の頃好きだった女子と再会した件

憂木 秋平

第1話 初恋の少女とタイムカプセル

 俺、秋月修平は出かける準備をしていた。時間は、夜の七時。普段なら、こんな時間から外出するような事はないし、受験生である高校三年生の今なら、なおのことである。それでも、外出しようと思い立ったのは、理由があったからだ。


 俺が中学一年生の春頃、中学に入学してすぐに仲良くなった男女のグループで、タイムカプセルを埋めたのだ。仲良くなった記念に何かしたいとかで集まって、高校三年に上がったときに、もう一度集まろうと約束した。それが、四月一日で、つまりは今日である。


 俺は、タイムカプセルを埋めた公園へと向かいながら、馬鹿らしいと考えていた。確かに、あの時は楽しかったし、青春の一ページの微笑ましい出来事だったといえるかもしれないが、タイムカプセルというのは良くなかった。


 これは、俺の持論だが、タイムカプセルというのは、ほぼ確実に開けられることがないように思う。小学校を卒業する時にも、十年後に皆で集まって開けようと約束したが、十中八九それは叶わないだろう。それは、今回のタイムカプセルも同様で、あの時のメンバーとは、結局すぐに疎遠になった。当然、連絡を取っている相手なんているわけもなく、今日の約束についてメッセージが来ているということもなかった。


 つまり、今日の俺の行動はただの自己満足である。ただ一人で、自分が埋めた何かを掘り出しに行くだけだ。何を埋めたのか覚えていたなら、きっと俺はわざわざ掘り返しに行くようなことはしなかっただろう。ただ、どれだけ思い出そうとしても、あの時何を埋めたのかが、全く思い出せないのだ。


 公園へと向かいながら、何とか思い出そうと頑張ってみるが、結局、欠片も思い出すことはできなかった。


 三十分ほど歩いて、ようやく公園に着いた。辺りはもう真っ暗で、公園の頼りない街灯が微かに周囲を照らしていた。当然、こんな時間に公園で遊んでいるような人もいない。


 静寂に満ちた公園の中を歩き、俺は、一際大きい木の下まで歩いて行った。


 ……やっぱり、誰も来ていないか。真っ暗な公園の中に立っているのは俺だけで、何の虫かも分からない虫の鳴き声だけが、静かな公園に響いていた。


 確か、この木の周辺に埋めたような気がする。一応、スコップは持ってきているため、それほど苦労することなく掘り出せるだろう。


 適当に掘り返し始めて、十分ほど経った頃だろうか。後ろから、足音が聞こえてきた。


 近隣住民だろうか?何となく、公園を掘り返しているという行為が悪いことのような気がして、俺はスコップを近くの草むらに隠して、携帯を触ることにした。散歩か何かで通りかかっただけなら、すぐに公園から出て行くだろう。それまで、適当に携帯でも触って時間を潰せば良い。


 しかし、俺の予想とは異なり、足音は俺の近くまで来た後、聞こえなくなった。つまり、この真っ暗な何もない公園で静止したということである。


 ……怒られるのかもしれない。最初に浮かんだのは、そんな感想だった。咄嗟に隠したつもりではあったけど、俺が掘り返していたのを見られたのだろう。そうでなければ、こんな公園に用事があるとは思えない。


 面倒だが、こういう時は、先に謝ってしまう方が良い。うまくいけば、それで立ち去ってくれるかもしれない。


 俺は、触っていた携帯をポケットにしまい、振り向くと同時に頭を下げた。


「すみませんでした。昔、遊びでここに埋めてしまったものがあったため、良くないなと思い、掘り返していたんです。」


 頭を下げたまま、相手の答えを待つ。


 そんな時間が、五秒ほど続き、俺が頭を上げようかと考えはじめたところで、ようやく相手が口を開いた。


「……いや、知らないけど……。」


 一瞬、思考が停止したが、すぐに羞恥がこみ上げてくる。


 ……別に、怒ろうとしてた訳じゃなかったー。やばい、もの凄い恥ずかしい。出来るなら、今すぐここから立ち去りたい。でも、まだ掘り返した場所を埋めてない。というか、だったら何でこいつはこんな場所に立っているのか。ややこしい奴め。早く帰ってくれないかな。


 俺は頭を下げたまま、目の前の人物が立ち去るのを待った。しかし、一向にその人物は動きそうにない。


 こうなったら仕方がないと思い、俺は愛想笑いを浮かべながら、顔を上げた。


 そこに立っていたのは、綺麗な長い黒髪の美少女だった。透き通るような白い肌が、暗闇の中でも存在感を放っていた。


 その姿に、目を奪われかけるが、すぐに何か言い訳をしなくてはと思い直す。しかし、目の前の少女は俺が何か言うよりも早く、口を開いた。


「……修平?もしかして、タイムカプセルを掘り返してたの?」


 ……誰だこの人。その話を知っているということは、あの時のメンバーの誰かなのかもしれないが、心当たりがない。こんな綺麗な人、いたかな?


 俺が困惑しているのを見抜いたのだろう。その少女は、少し笑いながら自己紹介をした。


「冬水透子よ、忘れちゃったの?」


 その名前は……よく覚えている。俺の初恋の相手であり、想いを伝えるわけでもなく、諦めた相手だ。透子は、確かにあの時のメンバーにいた。それでも、全く分からなかったのは、あの時よりも、かなり綺麗に成長していたからだ。

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