白紙の日記

 ――それからあっという間に時が経ちました。


 勇者たちは、予想通り凶悪な強さを手に入れてこちらへと向かってきます。


 中継映像で勇者たちの動向を追っていましたが、まあひどいものでした。


 旅の途中で伝説の剣を手に入れたり、エルフの祝福を受けてハーレムを作ったばかりか、呑んだだけですべての傷が全回復しやがる薬を手に入れたり、魔界とは別にある亜空間から召喚獣を呼ぶ呪文を手に入れたりしています。


 あいつらは計画的に私を殺すための準備を進めていました。


 こちらとしては白旗を上げてお茶を濁し、敗戦処理でなんとかしようかと思った時もありましたが、あの残忍な男は私を生かそうとはしないでしょう。


 それに、奴らに降伏するということは、裏切り者のサキュバスにも頭を下げるということです。そんなことをするぐらいなら死んだ方がマシというものです。


 勇者たちは私の住む魔界へとやって来て、空気も読まずにこちらが放った刺客を伝説の剣とやらで次々と斬り殺していきます。私に言わせれば完全なシリアルキラーです。お前みたいな奴がいるから、ウクライナやガザへの軍事侵攻が起こったりするのです。


 ふざけやがって。ふざけやがって。


 私の命も終わりが近付いています。


 もはや私の力でどうこうできるレベルではなくなった勇者たちは、生き生きと魔王城を驀進して来ています。


 当の私は覚悟が決まっているのか、それとも諦めの境地なのか、燃え盛る本能寺で死期を待つ織田信長のようにじっとしていました。


 嗚呼、もうこうなればヤケです。


 来るなら来やがれと、どっしりと玉座に腰を下ろしています。


 その気になれば逃げることができなくもないですが、それでも私は魔王として生き、魔王として死にたいのです。


 この日記は誰かに読まれるかもしれないし、誰にも読まれずに燃えていくかもしれません。ただ、そんなことはどうでもいいです。


 目の前にはどうしようもない困難があります。


 ですが、私は逃げませんでした。


 ここに私は自分が生きた証を残しておこうと思います。


 人間の世界にもアンネの日記というものがあったそうです。それは書いた少女が戦争で亡くなった後にも多くの人の心を動かし、本を通じてたくさんの人が彼女の存在を知ることとなったのです。


 おそらく私はもう少しすればこの世にはいないでしょう。


 ですが、私の記憶は読み手によっていつまでも共有され、私という存在は他者の中で生き続ける。そんな未来を期待してしまう私はいくらか女々しいでしょうか?


 さて、勇者たちの足音が聞こえてきました。


 これから、最後のひと花を咲かせてこようかと思います。


 願わくば、あなたの心の片隅に、私の記憶が残ってくれれば。


(日記はここで途切れている)


   【了】

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まおうのにっき 月狂 四郎 @lunaticshiro

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