第34話 日の本第一の先駆け
元寇、そして魔寇に参戦した、
元々は小身の御家人であり、元寇には自分も含めて僅か5騎の手勢しか連れて行くことができなかった。
だが、その5騎で1500人の元軍を強襲。当然、劣勢に追い込まれるが、触発された他の御家人が援軍に駆けつけ逆転。結果的に先駆けの武功を得た。
命令を半ば無視された総大将の
その後、魔寇にも参戦。志賀島に
竜殺しはともかく、夜襲の命令は出していない総大将の
魔王軍の撤退後は、他の御家人と同様に魔界へ侵攻。平阪府にジャルディーンの軍勢が攻め込んでくると、僅か50騎で手薄になった後方の砦を奇襲。これを落とすという武功を挙げた。
盾にされた総大将の
戦績が示す通り、
当然、相手が100人を一度に焼き殺す焦熱伯ジャルディーンであったとしても、それは変わらない。
「大将首、置いていけぃ!」
季長はジャルディーンに向けて二の矢を放つ。これも龍鱗の矢だ。ミスリルの鎧だろうがマジックシールドだろうが貫くので重宝している。
騎獣に跨るジャルディーンは、剣を振るって矢を弾いた。火炎魔法では防げないという判断だろう。正しいが、飛んでくる矢を切り払うなど中々できるものではない。
好敵。季長は口の端に笑みを浮かべ、馬の進路を左へ向けた。直後、体の右側で火球が炸裂する。ジャルディーンの火炎魔法だ。前兆は見えない。呪文も聞こえない。戦拍子と勘を信じて避けるしかない。
ジャルディーンに左から回り込んだ季長は、腰を大きく捻って右側を向き、ジャルディーンに矢を向けた。胴めがけて矢を放つ。だが、今度は鎧に矢を弾かれた。
弓を左に持つ都合上、馬に乗りながら右側を撃つのは難しい。自分では十分だと思っていたが、ジャルディーンの鎧を貫くには僅かに威力が足りなかったようだ。反省しながら身を屈め、炎を避ける。
そこで、両腕が黒焦げになったカマクランの少年と目が合った。刀も握れないほど負傷しているが、目には鋭さが残っていた。
少年の横を駆け抜け、季長の馬は反転。再びジャルディーンに向けて突進する。残りの矢は2本。決め切れるかどうか思案する。
ジャルディーンは拍車を掛け、騎獣を走らせた。季長の右側に回り込もうとしている。騎射の弱点を熟知した動きだ。魔寇において大勢のカマクランを屠ったという勇名は伊達ではないらしい。
ならば、と季長はジャルディーンとすれ違い、そこで体を大きく倒して馬を素早く旋回させる。
すぐそばで火球が散った。炎を掻い潜って身を起こし、すぐさま弓を放つ。ジャルディーンは振り向きざまに剣を振るう。矢は弾かれたが、衝撃でジャルディーンの体勢が崩れた。
好機。季長は最後の矢に手を伸ばす。だが、ジャルディーンが叫んだ。
「燃えつきろ! ファイアストーム!」
ジャルディーンの周囲に数十本の火球が出現する。それらが一斉に季長に襲いかかる。
季長は手綱を捌くが、避けきれる数ではない。一発が季長の
だが、体が焼け落ちるほどではなかった。数を増やした代わりに威力が落ちたか。
「『てつはう』ほどではないなっ!」
炎の嵐の中で最後の矢を放つ。
「むぐうっ!?」
ジャルディーンが呻く。矢が刺さったのは左肩。ミスリルの肩当てを貫通したが、ジャルディーンの戦意は未だ健在。
「ならばっ!」
「おのれぃっ!」
季長は弓を投げ捨て、腰の太刀を抜く。ジャルディーンも肩の矢を引き抜き、剣を構え直した。
馬と騎獣が駆け、双方の突進の勢いを刃に乗せ、ぶつけ合う。弓矢と魔法による射撃戦は終わりを告げ、太刀と剣による接近戦へ移行する。
ジャルディーンが剣を振り下ろせば、季長の太刀が受け止める。季長が太刀で薙ぎ払えば、ジャルディーンは小手で防ぐ。突き出された剣を掻い潜った季長は、ジャルディーンの腕を切り落とそうとするが、騎獣の体当たりでバランスを崩され不発に終わる。
事ここに至っては魔法の出る幕はない。龍鱗の矢を使い切った季長は当然だが、ジャルディーンも魔法を使う余裕がない。一瞬の集中さえあれば季長を焼き殺せるが、その一瞬で季長はジャルディーンの首を刎ねるだろう。
「突っ込め、突っ込め! 閣下をお守りしろ!」
「
ジャルディーン軍、カマクラン、双方共に主人を助けようとするが、互いが邪魔になって辿り着けない。結果、季長とジャルディーンの一騎討ちは続く。
振り下ろしを避けた季長は、ジャルディーンの手首を狙って斬撃を放った。だが太刀はミスリルの小手に阻まれた。季長の太刀は業物ではあるがただの鉄。金属を斬るには至らない。
ジャルディーンは剣を引き戻し、立て続けに斬り掛かる。動きが大胆になった。右手で剣を振るい、左手の小手で太刀を防ぐ。左の小手が盾になると気付いての攻勢だ。
太刀を攻撃と防御の両方に使わなければいけない季長は、必然押され気味になる。
「ぬんっ!」
振り上げた剣が兜の大鍬形を斬り飛ばした。傷にはならないが、不利の証だ。
それを打ち消すかのように、季長は剣を振り下ろす。狙いはジャルディーン、ではなく、彼が跨る騎獣。斬られた痛みに騎獣が吠え、大きく体をのけぞらせる。
「おおっ!?」
太刀を防ぐために左手を手綱から放していたジャルディーンは、大きく体勢を崩した。そこへ季長が斬り掛かる。ジャルディーンは剣で何とか防御した。鍔迫り合いとなる。
「侮ったな、焦熱伯」
「誰が竜殺しを侮るかよ」
追い込まれているというのに、ジャルディーンは不敵な笑みを浮かべた。
鍔迫り合いの一瞬。それはジャルディーンが魔法を繰り出すには十分すぎる時間であった。
その口が、呪文を紡ぐ。
「燃え尽き……ッ!」
呪文は青い血に変わった。魔法は痛みによって中断された。
「いいや、侮った」
季長が告げる。彼の刃は未だジャルディーンの剣に届いていない。
届いたのは、ユーキが咥えた短刀だった。
「両腕を失った程度で、
ジャルディーンの背中に飛びかかったユーキは、咥えた短刀を脇の下に突き入れていた。分厚い刃はプレートアーマーの隙間からチェインメイルを貫き、ジャルディーンの肺まで達していた。
「小僧……ッ!」
歯を食いしばり、ジャルディーンはユーキの頭に肘打ちを入れる。鈍い音を立ててユーキが吹き飛んだ。
落下するユーキに騎獣が襲いかかるが、割って入ったスツェリが騎獣の首に剣を突き刺して止めた。
直後、ジャルディーンの首が宙高く舞った。鍔迫り合いを制した季長が太刀を一閃、首を斬り飛ばしたのだ。
首はユーキを助け起こすスツェリの足元に転がってきた。驚くスツェリ。そこに季長がやってきて、差し出すように手で示す。
スツェリは混乱しながらも、首を拾って季長に渡した。季長は首を高々と掲げ、叫んだ。
「焦熱伯ジャルディーン、この竹崎五郎兵衛尉季長が討ち取った!」
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