第14話 @
鳳凰館で韮は泣いていた。執事の
「新たな女スパイを雇わないといけないな?」と、韮。
「絵里様を再雇用致しますか?」
「彼女の心はもう死んでいる」
絵里は薫子の前にいた女スパイだ。
ある任務に失敗し、婚約者を失った。韮や横光に叱られて辞めてしまった。
「一応、声だけかけたらいかが?」
「じゃあ、そうしようかな?」
2023年1月6日、韮は渋谷にやって来た。
渋谷にある一等地にそのビルはあった。
『ファイア』という福祉事業を営んでる会社だ。
受付の女性は
「スミマセン、こういう者です」
韮は名刺を渡した。今や就活中や転職中に名刺を持つのは当然。
「福祉の仕事に興味があります。社長か、それが駄目なら秘書の方に会わせてください」
履歴書を送ろうか悩んだが、送らなかった。面接出来なかったら話にならない。
「アポは取っておられますか?」
「いいえ……」
「内線で確認してみます」
受付嬢が電話してる際、どう切り出そうか考えた。確か、彼女は『スパイ・キッズ』が好きでスパイを目指したのだ。韮はあのシリーズはあまり見ない。ガキ臭いからだ。渋々、借りて見た。
確かこんな話だった。
秀才のカルメンと弱虫のジュニのコルテス姉弟は、自分達のダサい両親が実は元々超一流のスパイであったことを知る。二人は両親が隠れ家に残した手がかりと最新のスパイ・ツールを駆使し、何者かに攫われた両親の救出に向かう。その裏では、かわいらしい子供の姿に超人的な戦闘能力と頭脳を持ち合わせたアンドロイド『スパイ・キッズ』を大量生産し世界征服を目論む計画が進行していた。
「お待たせ致しました。社長の
やった!作戦成功だ。
エレベーターで13階まで上がった。
エレベーターの中で自分が大学生だった頃を思い出した。都内にある四大を出た。様々な年代の文学を研究した。文芸サークルに所属し、そこそこ楽しく過ごした。13階に到着した。チンッ!「コ」と言って笑った。
エレベーターを降り、廊下を歩き秘書室のドアをノックした。
「はっ、はい?」
油断大敵だ。本名は中に入るまで明かすべきではない。
「鬼庭と申します」
「どっ、どうぞ……」
ドアを開けたら伊藤沙莉に似た女性が立っていた。秘書室は実に殺風景だった。
「よう」
「にっ、韮さん!?」
「元気だったか?」
「ぼっ、ぼちぼちです」
「どんな仕事をしてるんだ?」
「じょっ、上司のスケジュール管理をはじめ、社内外とのメール・電話対応、おっ、おっ、お茶出しや会議室予約などの来客対応、パッ、パソコンを使用しての各種資料作成などさまざまな業務があります」
「相変わらず聞き取りにくいな? そんなんでよく務まるな?」
「電話は掃除のおばさんがやってくれます」
「いい会社じゃないか?」
「カルメンはカッコいいよな?」
「そうですよね? 座っていいか?」
「はっ、はっ、はい……」
ソファに腰掛けた。
「おっ、おっ、おっ……」
「戻ってこないか?」
「え?」
「いや、ちょっとそれは……」
「おっ、おっ、おっ、お茶をお持ち、ち、ち……」
「喉は渇いてない」
「そうなんですか」
彼女は韮に向かい合って座った。
「
原子物理学者、蔵羅は学術会議に出席するため、アシスタントで婚約者の絵里と共に船で女王島に向かっていた。しかし女王島に着く前、蔵羅はある文書を受け取り、急に「九十九で研究活動を続ける」と言い出した。女王島に着いて早々、書店から受け取った本に隠された暗号に従い熊本行の飛行機に乗る蔵羅を不審に思った絵里は、彼のあとを追う。
到着した熊本では、中国の記者も招いた記者会見で蔵羅の亡命受け入れと
蔵羅の正体は科学者を装った中国側のスパイだったのだ。絵里は韮たちから蔵羅がスパイだと気づいていてハニートラップを仕掛けて結婚までした。蔵羅のが勃ったときはビックリした。絵里はそれまで処女だったのだ。謎と危険に満ちた熊本陣営の中で、絵里は驚くべき事実を知る。『@』の正体は
「おどんは熊本大好きな人間やねん!」
星馬はケータイ型銃で蔵羅を背後から撃った。
麦畑のあちこちで銃声が響き渡る。
絵里はバック転で銃弾を躱した。
おどんは熊本弁で俺って意味だ。
「熊本護るために死ねるなら、おどんは本望やわい!」
星馬は熊本が中国と同盟を結んだことを教えてくれた。
絵里はスパイになることを断った。
「わっ、私はもう誰も死なせたくありません」
韮は肩を落とした。
「ハアッ、ボスから怒られる」
何を隠そう『ビッグモール』のボスは執事の蘇我なのだ。
卑弥呼は死なず 歴史✕ミステリー 鷹山トシキ @1982
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