第2話 極東地域

 ロシア全域は無政府状態であった。

 残された国民の多くは貧困に喘いでいた。

 工業地帯と穀倉地帯、資源採掘地は戦後賠償として周辺国に奪われた。

 残された国土は国連の管理下に置かれたが、僅かな支援物資を送るだけであった。

 極東地域も同様で、治安維持の要請を受けた日本政府が管理をしている。

 日本政府は街、村の単位で国民の移動を制限した。

 日本政府が治安維持を請け負ったのも大儀があったからじゃない。膨大な量の難民が海を渡り、日本に押し寄せるのを防ぐためであった。

 これと同様の事は中国でも行われている。

 陸地で接しているEUでは国境付近に軍が置かれ、押し寄せる難民に銃撃を加えていた。すでに人道など失われて久しい。

 派遣されたDOGは難民を管理する。

 それは人道的とは違う。

 最低限の食料と薬品を渡し、最低限の生活を保障するだけ。

 街から逃げ出そうとする者が居れば、確保する。

 治安を乱す者は逮捕して、現地裁判に掛ける。

 難民は皆、ただ、この地獄で生かされているだけだった。

 「おい、何か隠し持っていないか?」

 街中をパトロールするDOGの隊員は怪しい人物を片っ端から職質する。

 彼女達が注意するのは武器と麻薬。

 地獄のような場所でも麻薬は広まる。それがロシアンマフィアの増長へと繋がる。

 厳しい職質は難民からの不満を買う。

 それを力で制圧する。

 難民はただ、圧し潰されるだけだった。

 ただし、モスクワを中心とする中心区域では話は違った。

 破壊されたモスクワは国連の管理さえ届いていない。

 だが、そんな街を中心に元ロシア軍の武装勢力が着実に勢力を拡大させていた。

 かつてのロシア帝国の復活を望む集団『大ロシア帝国』である。

 その首領であるロマノフは自らをかつての皇帝の末裔だと名乗る。

 それが事実かどうかは判別がつかない。だが、彼の元には多くの信奉者が集まる。

 そして、資金も着実に集まった。

 彼らの現在の目標はロシアからの他国勢力の追放である。

 当然ながら、極東に派遣される日本勢力は目の敵であった。


 極東地域における脅威は犯罪程度で収まっていた。

 戦争終了直後は主を失った無人兵器が跋扈しており、各地で戦闘が起きていた。

 派遣されたDOGにもかなりの被害が生じていた。

 だが、ここ半年は被害は出ていない。

 タマ達はいつも通り、パトロールに出る。

 そろそろ、無人装甲車などにパトロールを任せる案も出ている。

 パトロールを有人で行う理由は視野の狭い画像情報だけでは確認が出来ない事態も多く存在するからだ。

 空には偵察ドローンが飛び回り、危険性が迫っていないのは確認済みだ。それでも戦時中もそうだが、ドローンに発見されずに接近をする事は可能なのだ。

 「今日は燃費が良いワン」

 タマの搭乗する機体はいつもに比べて、調子が良かった。

 燃料電池を主電源にする為、搭乗員の真下には液化水素ボンベある。そのせいで搭乗員は結構、寒さを感じる事になる。

 液化水素のボンベは炭素繊維などで作られ、簡単に壊れる事は無いが、何かあれば、一瞬で爆発する。その為、戦時中から日本において、人間の搭乗は禁止される。ヒューマアニマルのみが搭乗する事になると、開発もそれを主眼に置き、他国においては安全性を考慮して、ボンベと搭乗員を隔離する為に大型化していったが、逆に小型化する事になった。装甲が薄いのも中に乗っているヤツの命の薄さだと揶揄されている。

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