D.O.G~わんわん大戦争~

三八式物書機

第1話 D.O.G

 亜細亜を発端とする第三次世界大戦が終結をした。

 正確には世界を覆った戦禍の大半が沈静化しただけである。

 世界の人口は3分の1となり、多くの国家が滅亡した。

 大半の地域は無政府状態となり、飢餓と疫病が蔓延していた。

 日本は甚大な被害を受けたが、何とか戦勝国となっていた。

 東京は核攻撃により壊滅して、埼玉県に遷都された。

 人口は3分の1となり、労働力が大幅に低下した。

 政府は産業の自動化や機械化を推し進めたが、現状では低下した労働力を補う程には至らず、復興の足枷となっていた。

 困窮した政府は禁忌の技術に手を出す。

 人工生命体。

 労働力となる生命体の生成と育成。

 必要とされるのは人間のコピーである。

 だが、それは倫理的に大問題であるとされた。

 そこで、政府は一つの案を練った。

 人間の遺伝子と動物の遺伝子を掛け合わせた新しい生命である。

 人間と同等の知性と器用さを持ち、尚且つ動物の特徴を持った生命体。

 それを人工子宮と呼ばれる機械によって、全自動で生み出すのである。

 大きな問題であったが、しかしながら、戦時中に世界中で研究され、一部、実戦投入もされた実績がある為、この事に表立って、異論を唱える国は無かった。

 人間と動物の遺伝子を掛け合わせて、作られた人工生命体を政府はヒューマアニマルと名付けた。ヒューマアニマルはあくまでも家畜扱いである

 そして、彼女達は国防、警察、消防など、危険な任務に投じられた。


 陸上自衛隊の隊員の6割がヒューマアニマルであった。

 特に最前線へと送り込まれた直接攻撃集団の9割がヒューマアニマルであった。

 通称、D.O.G(ドッグ)と呼ばれる部隊に所属する彼女達は殆どが人と犬を掛け合わせたヒューマアニマルである。

 警察は猫、自衛隊は犬はその動物の特性を捉えての配置であった。

 ヒューマアニマルの特徴としては、全体的に人間の形状をしている。

 見た目はほぼ、人間であると言える。

 異なる部分は耳が獣耳であり、臀部にシッポがある事。

 髪の色が獣特有であったり、犬歯が鋭いなどあるが、左程、気になる点ではない。

 ヒューマアニマルは全体的に身体能力が人よりも高い。

 ただし、寿命は動物並であり、急速な育成もあり、知性は人より高い事は少ない。

 

 国連支配地域である極東の都市、ウラジオストク。

 すでにロシアは滅亡していた。多くの都市は壊滅していた。

 ウラジオストクも大戦初期の激戦地であり、建物の多くは倒壊していた。

 無政府状態でマフィアが闊歩している。

 現在は治安維持の為に国連からの要請を受けて、日米から部隊が派遣をしていた。

 陸上自衛隊直接攻撃集団第1空挺団第1偵察隊

 ウラジオストク郊外に設営された駐屯地を中心に周辺の治安維持を行う中隊規模の部隊である。

 人の倍程度の大きさの人型ロボットが歩いていた。

 西洋の甲冑のような見た目をしたそれは滑らかな動きで人のように歩いていた。

 「隊長、燃料が底を尽きそうワン」

 その体内に収まるのは自衛隊員であるヒューマアニマルである。

 ARヘルメットに全ての情報が表示されるため、機体内にディスプレイは無い。それどころか、操作系もARにより、電脳化した脳からの信号を受けて、操作されるため、一切、無い。体を保持する為、かなり窮屈な機体内となっている。

 搭乗員はまるで自分の手足を動かすように機体を動かす。

 視界の周囲に様々な情報が表示される。小隊長との短距離無線が繋がっている。

 『お前の機体、燃費が悪過ぎるぞ。整備隊にしっかりと整備をして貰え』

 「もう何度もそう言って、重メンテをしてもらってますワン」

 『ガス欠したら、お前だけ置き去りするからな』

 「酷いワン。ポチの責任じゃないワン」

 『うるさい。文句なら整備の奴らに言え』

 「むぅうう。そろそろ、機体の更新を願いたいワン。ポチのだけ戦争前から使っているワン」

 『我慢しろ。どこも予算不足だ』

 現代の鎧と呼ばれる人型戦闘機は機関銃や爆弾の破片程度は耐える装甲、ミサイルや大砲などの一人の歩兵には扱えない武器、様々な電子装備の搭載などの特徴があり、行動範囲の狭さを除けば、装甲車並の価格で投じられる強力な兵器として、登場した。

 ポチ達が乗るのは標準型と呼ばれ、人と同様の四肢を持ち、手に25ミリライフル砲を持ち、背中に防護用自動ガトリングガンを搭載している。更に腰に対戦車ミサイル、両肩に対空ミサイルを搭載している。

 50キロの警戒行軍を終えたポチ達は駐屯地の倉庫へと向かう。

 機体の背中が大きく開かれる。中には人が入っている。搭乗員は自転車やバイクに跨るような姿勢で乗っている。体を固定するベルトを外し、ARヘルメットを外して、降りる。ARヘルメットは顔を完全に覆ってしまう為、そのままでは外が見えないからだ。

 「疲れたワン」

 黒髪に白髪が混じったような髪を背中まで垂らした少女はいかにも疲れたような表情で地上に降りた。人型戦闘機は振動が酷く、普通に歩行しているだけでも搭乗者は乗馬でもしているぐらいの疲労を受ける。

 「お疲れさん」

 整備小隊のテツが声を掛ける。

 「テツワン。燃費が悪過ぎワン。途中で止まるかと思ったワン。何を整備してるワン?」

 文句を言われ、テツは露骨に嫌そうな顔をする。

 「なんだって?ポチの癖に生意気だな。そいつにはスクラップから拾ってきた程度の良い燃料タンクを入れてやったってのに」

 「なに?新品じゃなかったのかワン?」

 「新品?ふざけるな。本国に請求したって、届くのは1年先だよ」

 「むううう」

 「安心しろ。ちょっと見てやる。調整したら、燃費ぐらい何とかなる」

 「頼むワン」

 ポチは余計に疲れた感じで小隊の列に入る。

 整列した隊の前に小隊長のアザミが立つ。

 「ご苦労だった。本日は無事に終わり、特に異変も無かった。総員、休息しろ」

 その言葉で解散となる。

 この最前線での休息は限られている。まずは寝る事だった。

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