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「全世界の皆様、お話を聞いてくださりありがとうございます。また、テレビを見られない方、インターネット通信が遮断されている方にはできるだけこのお話をお伝えください。現在世界各地に現れている生物に我々は、『エイリアンβ』と名付けました」

 ボントイが、凛とした声で言う。彼女が昨夜、泣きじゃくっていたことなど誰も知らない。飼い犬が新しい建物に慣れず、怯えているのが悲しくて仕方なかった。このような事態になっても、変わらず日常を過ごしている人々もいた。映像はフェイクだと言う者、地球政府が影響力を強めるための自作自演だと言う者、よくわからないがとにかくなんとかなると言う者もいた。愚か者に飼われた方が幸せだったのに、とボントイは自責の念に駆られたのである。

 映像の中の星長は、しっかりと前を見据えている。彼女は目力でトップになったともいわれることがある。

「地球にはかつて、エイリアンが訪れたことがあったようです。しかし、それがやってきたのは私たちが誕生する前でした。人類が誕生する以前に、息絶えていたのです。この存在を隠していたのは、皆さまを安心させるため、そしてエイリアンがもしこの世界に紛れ込んでいる場合、対策していることが知られないためでした」

 嘘はついていない。エイリアンは意図的に、人間に劣るイメージが拡散されてきた。それは、人間がエイリアンを恐れていないとアピールするためだった。しかし実際には、地球までやって来る技術を有したエイリアンが賢くないはずがない。賢い敵が襲来する予定で、地球政府は準備をしていたのだ。

「しかし今や、危機は姿を現しています。幸いにも人類はすべて、共通の敵と戦うことになります。一致団結して、この困難を乗り越えましょう」

 これが真実ならば、とボントイは内心思っていた。もしエイリアンがどこかの国と通じていたならば。自分がどこかの星を攻めるならば、それを考える。もちろん地球政府はそちらも調べている。しかし初めての事であり、「宇宙人との内通を探知した実績」がないのである。

 撮影が終わると、ボントイは机に突っ伏した。



「はあ。そういうことも考えないとなんだなあ」

 ニーノも、ボントイの演説は視聴していた。一人で無人島にいる彼には、別世界の話のように感じた。「出来るだけ水場から離れろ」ということだったが、今の彼にはどうしようもなかった。寒冷地は安全、という言葉を信じて水に囲まれた土地にいるしかない。

 ニュースでは、ついに空母にも被害が及んだと言っている。船は全部、役に立たないと考えた方がいいかもしれない。運河や船が使えないことにより、世界の物流も無茶苦茶になっている。食料を輸入に頼っていた国は阿鼻叫喚となっているし、いまだに化石燃料を利用している国もまたしかりだ。海中資源採掘施設や、海上風車も被害を受け始めている。

「海を支配するのは強いなあ」

 海を自由に使えないことにより、ここまで人類は困るのか。ニーノは想像力が欠如していたことを反省した。そして、空の重要性が増したことを実感する。エイリアンβには、制空圏はないらしい。

 ヨオからは、「何までならば待避エネルギーで飛ばせるか」という質問が来ていた。対象を提示されればヨオの計算力はすさまじいのだが、理論を応用するのはニーノの方が得意だった。ヨオは待避エネルギーの存在証明が得意で、ニーノはその使用が得意なのである。

「飛行機いけるかなあ」

 何が可能という計算結果が出るかは、直観に頼るところが大きい。この場合の飛行機は大型のジェット機である。人々は飛行機での移動を求めているが、飛行機はいまだに燃料で飛ぶものである。また、海の近くに滑走路がある場合、飛び立つこともできない。「燃料を使わずに、走らずに、飛ぶ」ことが求められそうなのである。

「あれ、重いんだよなあ」

 ニーノは、そう言いながらネオニュートン号の壁を撫でた。

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