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 夏の北極圏は、昼が長い。ふと外を確認するとまだ明るい、という現象をニーノは何度も経験した。

 人間のいない島は、とても静かである。アンドレー隊がいた時も静かだったろう、と彼は思う。ここではそうするのが、礼儀のような気がするのだ。誰に対してか。自然か、神か。よくはわからないが、ずっと「島を間借りしている」という感覚が彼にはあった。

 エイリアンβによって駆逐艦などが沈められている、という情報があった。敵意ある船が見分けられる、との意見があった。ただ、現在海上を船で移動しようという人間はいない。

 本当に狙ったのか。それはニーノにはわからないし、あまり興味のないことだった。

「いや、どう飛ぶか、だよなあ」

 彼は軍事のことはからっきしである。子供のころから、そういうものには興味がない方だった。謎の生物と戦う兵器を開発するなどは、全く想像がつかなかった。

 ただ、空を飛ぶ技術なら現在有している。エイリアンβが本当に寒冷地が苦手ならば、ニーノは今とても安全なところにいる研究者ということにもなる。その意味では、「特に何かができそうな人類の一人」になるのかもしれない。

「それより北極点目指したかったんだよなあ」

 


 ヨオは、いつも以上の孤独を感じて驚いていた。

 ずっと社交的ではなかったし、多くの時間を一人で過ごしてきた。だが、しばらく誰とも会えないと思うと、会いたくなってくるのだ。

 研究者になってからは、恋もしていない。友人と会うこともまれである。彼自身は、ずっと一人でも大丈夫だと思っていた。

 シェルターは、任務を終えるまで開かない。最悪のバターンは、敵に負けたのに、シェルターが壊されないパターンだ。知り合いはすべて死に、世界がすっかり様変わりした中で、怯えながら引きこもることになったら。エイリアンβには、弱いか、もしくはとても強いことを望んだ。

 とにかく、早く決着がついてほしい。ヨオは専門外のことまで含めて、できるだけの力で計算をした。普段提携している研究者や企業の中には、連絡のつかなくなった者もいる。逃げたのか、亡くなってしまったのか。それは対外生物特殊隊の研究者も例外ではない。もし契約に違反して逃げたとなれば、本来の仕事に復帰することはかなわない。

「命あってのなんとやら、とも言うし」

 そもそも、世界がそれを許す状態に戻らないかもしれない。「研究者は不要」と言うのが好きな人々がいることを、ヨオは嫌というほど知っている。「かろうじて人類が勝利した」ような社会では、そもそもヨオのような研究者は必要とされないかもしれないのだ。それならば、最初から逃げていた方がましかもしれない。

 しかし彼は、そういう世界を見てみたいとも思うのだ。研究者特有の好奇心である。荒廃した世界で、夜空を見上げてみたい。そして、星々は地球の有事に関係なく、瞬き続けているというのを見てみたい。

 ヨオは、研究室の天井を見上げてみた。シミ一つない、真っ白な天井だった。

「あっちのキャンパスには、いくつか星があったんだがな」

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