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 待避エネルギー研究室は、地下鉄の終点駅から歩いて10分のところにある。大学は中心部の運河沿いにあるのだが、物理学部は新しいキャンパスにある。元々すべて移転する予定だったのだが、土地確保ができなかったのと、学生からの反対運動が起こって計画がとん挫していた。

 幸運だったのは物理学部の方だった。運河沿いのキャンパスは、すでに立ち入り禁止になっているのだ。運河にはエイリアンβは現れていないものの、海岸に姿を現し水道管と海底ケーブルを壊している。大学をはじめ多くの施設が、水やインターネットを使えなくなっている。

 だが、待避エネルギー研究室は水も備蓄していたし、衛星インターネット網も利用できるようにしていた。まるで、この事態を予測できていたかのようだった。

 そんな中、セイスは必至になってデータを集めて整理していた。ヨオ教授とは、連絡は取れるものの会うことができない。そして他の研究員や院生は、訪れることができていない。何人かはすでに疎開したと連絡を受けている。

 研究室には、彼女一人なのだ。

 もともとニーノの探検は危険で、自分が存分にサポートしなければ、と彼女は感じていた。しかし事態はさらに大変になった。世界を救うための仕事が待っているかもしれないのだ。

〈君をシェルターに入れてやれなくて済まない。いつでも逃げてくれ〉

 セイスのもとに、ヨオから連絡が届いた。セイスはしばらく口に手を当てた後、返事をした。

〈先生と閉じこもるのは遠慮しておきます〉



「ここはどうなのか」

「今のところは安全です」

 ボントイとクランドルはうつむき気味だった。地球政府の要人たちは、職場を変えなくてはならなかった。地球政府の本布施は、湖に近い場所だったのである。移動先は世間に公表されなかった。「エイリアンβは報道内容を把握している可能性がある」という報告が上がっているためだった。

 ボントイは、犬を抱いていた。もはや、自宅に帰ることはできないからである。

「かわいいワンちゃんですね。お名前は?」

戦乱ディスターバンスよ」

「え?」

「うそ。ピースちゃん」

平和ピース

「浮世離れした名前だったみたい」

「今は世界が浮世離れしていますからね」

 二人は臨時地球政府施設へと入っていった。

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