2-6
研究室に泊まることはあるが、連泊は初めてだった。
セイスの家族は、田舎へと疎開した。実家は、一人でいるには広すぎる。だいたい、実家でくつろいでいるときにエイリアンに襲われたら悲しすぎる。そんなわけで、彼女は研究室に住む覚悟だった。
セイスはかつて、博士課程に行くことも迷っていた。担当教官であるヨオや先輩のニーノは「奇才」だと感じていた。要領は悪いが、とにかく頭がいい。それに比べて、自分は凡人だ。凡人に生きていける世界なのだろうか。
悩むセイスに、ヨオは言った。「俺やニーノに見えないことが見えるなら、武器になる」
彼女はその言葉を信じて、今までやってきた。確かに偏執的ともいえるヨオやニーノは、視野が狭いと思うこともある。そんな二人の力になることができれば。
とは思っていたものの、まさか世界の危機に立ち向かう二人の手助けをすることになるとは思わなかった。待避エネルギーは、理論としては画期的だが、実用的とは思われていなかった。ニーノがいなければ、物体を飛ばすことすらあと50年はできていなかっただろう、とセイスは考えている。ヨオは、心的世界と物的世界の関係にとらわれすぎていた。その不思議さがわからなければ、待避エネルギーを利用できないと考えていたのである。しかしセイスは、利用の方から考えた。「おそらく引力が生じるので、物質を自由に動かすことができるはずだ」それが、ネオニュートン号の誕生へとつながったのである。
セイスはどちらかというとヨオに近いタイプだったが、尊敬するのはニーノだった。師匠はいつも真剣な顔をしているが、ヨオは目を輝かせながら研究していた。新しいものを見つけるための作業が、楽しくてしょうがないようだった。セイスも、そうなりたいと願った。
まったく楽しくない。世界の存亡がかかっている状況で研究をするなど、望んでいたことではないのだ。しかしセイスは、先生の、そして先輩の役に立ちたかった。それが、ずっと存在理由だったから。
キャンパスは、断水が続いている。トラブルとしては想定内で、一週間分は非常用の水が備蓄されている。しかし、エイリアンによる断水は想定外である。復旧工事のめどが立たない断水は、都市部においてはありえないはずだったのだ。
「私……脱水で死ぬのかな……」
地球政府も、「水の確保が必要」と判断した。解決策はわからなかった。
「ダムにも川にもエイリアンβが出現している以上、今よりも事態が好転するとは思えません」
クランドル長官のクマは日に日に深い黒になっていく。ボントイに窮状を報告するのも辛そうである。
「まだ、人々はそこまで問題と考えていないのね」
「96%の貯水池は無事です。しかし今後どれだけ制圧されていくかは不明です。エイリアンβの増幅は加速していますし」
「生物である以上、無限というわけではないはず。ずっと大量に隠れていたのならばわかりませんが」
「地球外生物ですから、我々の理屈で判断していいものかわかりません」
「それならば、相手にわからない私たちの理屈で対応したいものね」
頬杖をついたボントイは、頬の肌荒れを実感してしまい思い切り顔をしかめた。
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