待避エネルギー研究室

2-1

 ヨオが宇宙に興味を持ったのは、10歳の時である。両親が離婚し、母方の実家に行くことになった。そこで初めて、満天の星空があると知ったのである。

 ヨオが関心を抱いたのは、星座などの広がる天幕についてではない。奥行きのある、星々の浮かぶ空間についてであった。

 初めて興味を持った時から、ヨオは宇宙を空間として見ていたのである。そして、そこに謎を見出した。なぜ、宇宙はできたのか、と。

 勉強していくうちに持ったのは、次のような疑問である。宇宙にはエネルギーが満ちている。それは、どこからやってきたのか。

 高校生になり、彼は待避エネルギー仮説を組み立てることになる。この世界のエネルギー量は一定ではないという、斬新なものだった。しかしそれを口にすれば、不真面目だと思われる自覚もあった。

 この世界で生き残るには、魂を売り渡さなければならないこともたくさんあったのだ。学部、院と、優秀で真面目、おとなしくて、出身大学に誇りを持っている教授に対しては学歴を褒め、出身大学にコンプレックスを持っている准教授には実力を褒めた。

 耐えて耐えて、一人前になって初めて自説を唱えたのである。

 だが、当然のごとく敵は多かった。飽きるほどに「非科学的だ」という批判は聞いた。なかなか予算が採れなかった。利用する側として見れば、効率のいいエネルギーを求める。「原子力の代わりになりますか?」「自動車はどれだけ走りますか?」などと聞かれた。

 そんな中、「特殊な仕事」に誘われたのである。表向きには地球政府からの「協力開発者募集」という名目だったが、「詳細な話を聞いたのちに断られると困ります」と言われた。それで、どんな種類の仕事か察しがついた。

 そんなときに、ニーノが研究室に入ってきた。彼は極地に憧れて、新しいエネルギーでいつか旅をしてみたいと言った。

「いや、そんな力はないんだよ。心のスイッチを押すぐらいのものなんだ」

 とヨオは言ったが、ニーノはこう答えたのである。

「待避エネルギーは瞬間的に物質的なふるまいをして、引力を生むと考えています。それを利用すれば、空を飛べるのではないでしょうか」

 目を輝かせる青年に、ヨオは即座には言葉を返すことができなかった。ヨオもそのことは考えていたが、まだどこにも発表していなかったのである。自分がようやくたどり着いた一つの仮説に、この青年はすでに到着している。ヨオは期待するとともに、緊張もした。研究室は、この才能が生かせる場所でなければならない。

 ヨオは、地球政府への返事を二年間保留した。ニーノに一級品の修論を書かせるためである。もし自分が教えられなくなっても、どこにでも進学できるように。もし博士課程でも自分が教えるならば、基礎は完全にできている状態になっているように。

 そしてニーノが修了すると同時に、ヨオは地球政府からの依頼を引き受けた。そして知らされた内容は、予想以上に驚かされるものだった。

 地球政府の支援によって、ヨオの研究室には「緊急時シェルター機能」が備え付けられた。これはヨオを守るためのものでもあり、ヨオを逃がさないためのものでもある。

 ヨオは対外生物特殊隊の一員となり、対外生物が現れた時にはその撃退に全面的な協力をすることになったのである。

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