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ヨオ教授は、待避エネルギー研究室室長である。
彼は常に室長室にこもっている。住んでいるのではないか、とすら言われている。
彼はニーノやセイスの指導教官であり、二人の上司でもある。ただし、現在は二人の研究にはかかわっていない。あくまで待避エネルギーが彼の興味の対象であり、そこから生じる引力エネルギーの実用には興味がないのである。
とはいえ、金にならない研究は求められない時代である。ヨオが徹夜するのは、したくもない「実践的な」研究をしているためだと考えられていた。
彼は、ニーノの北極圏探検に関してもほとんどかかわっていない。取材が何件か来たものの、「私はよくわからない」と答えていた。
そんなヨオは、机の上に大きな世界地図を広げていた。じっと、上の方を見つめている。
「運が良かったのか悪かったのか」
ヨオは、つぶやいた。
一泊目。ニーノはまだ、スピッツベルゲン島にいた。待避エネルギーは空中にわずかしかなく、引力エネルギーへの変換効率もまだあまりよくない。現代の技術をもってすればもっと速く北極圏を渡ることができるが、ニーノが主張したいのはクリーンさなのである。だが、それとは別に彼は探検を楽しみたいとも思っていた。かつての極地探検家と同じように、ゆっくりと未知の場所を進みたかったのである。
歩いて、犬ぞりで、気球で、北極を旅した者たちがいた。そして今、小さな家のようなもので、北極を渡ろうとしている者がいるのである。
ニーノには、後ろめたさもあった。ネオニュートン号は、北極圏にありながら快適である。寒さも感じないし、食料を引きずって歩く必要はないし、トイレもある。先人たちが得られなかったものだ。だからこそ快適な北極旅を売りに、お金を得られる可能性があるのだが。
大人になってからのニーノは、思うような旅に出ていない。海外には何回も行ったが、国際学会や企業との会談のためである。時間がきっちり決められており、冒険して赴くわけにはいかない旅ばかりだった。
飛行機から雲を見下ろすたびに、「これじゃない」と彼は思った。なんでそう思うのか色々と考えたが、「飛行機は自分で操縦していないからだ」と彼は結論付けた。
今ニーノは、自分で操縦をしている。行きたい場所に行くことができるし、トラブルがあって行けないかもしれない。それは全部、自らの責任だ。それが、心地よい。
今のところ予定通りにいっていたが、油断はならないと彼は感じていた。試運転は何回もしてきたが、実際に引力エネルギーで北極圏を長距離移動するのは初めてなのである。予定外のことは、極地探検では当たり前に起こるのだ。
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