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ニーノは手を振りながら小屋の中に入った。人々には、家に帰る男にしか見えなかった。しかし彼は、「飛行邸」ネオニュートン号に入ったのである。
階段を上がり二階に行くと、部屋にはいくつかのモニターがある。一つは、ネオニュートン号の周囲を見るためのものだった。不安げな表情で見守っている報道陣も映し出されている。
一つは、大学の研究室との連絡を取るためのものである。シレニウ大学とは時差も少なく、昼間ならば直接後輩のセイスと通信することができる。
一応格好をつけるために操縦台の前に座るが、実は設定はすでに全て済ませてあった。後に、冒険の様子は動画にする予定である。その動画を見せることにより、技術の買い手を見つけるのだ。最近は研究だからと言ってなんでも肯定されるわけではなく、お金を生み出さなければ存続も危うい。この冒険は、引力エネルギーの活用に実用性があることを証明するためのものなのだ。
ネオニュートン号は、ゆっくりと浮き出す。観衆からどよめきが起こった。普通のプレハブのようなものが浮かぶ光景も異様だったが、外側からでは動力源がわからないのである。引力エネルギーは、待避エネルギーが心的世界に移行するときに発生する力である。物的世界を離れる際に、物質のような振る舞いをするのである。
心が何かをしようと決断した時、なぜ物質である脳に影響を与えるのかはずっと謎だった。心がエネルギーを持ってしまうと、エネルギー保存の法則が否定されてしまうのだ。しかし、心のエネルギーも一定量存在するという説が出てきた。心と物質はお互いにエネルギーやり取りをしていて、総量は変わらないというのである。
しかしそれでは、人間が誕生する前、心的エネルギーはどこにあったのか。人間がいない場所では、どうなっているのか。動物全体、もしくは生物全体が心を持つとしても、同様の疑問は残ったままであった。
そこで生まれたのが「待避エネルギー仮説」である。世界には、いつでも利用可能な心的エネルギーが利用されるのを「待って」いる。この説を唱えたのがヨオ教授であり、彼の考えに心酔したのがニーノなのである。
ニーノは、子供の頃は冒険家になりたかった。特に極地探検に憧れた。北極や南極を旅した記録は、地球上のことでありながら宇宙を訪れている物語のように思えた。そして決意したのである。「むっちゃ賢く極地冒険したい!」と。
その夢は、研究のために予算を獲得するという形で実現したのかしないのか、とにかくニーノは北極圏を冒険することにはなった。
「いまいち実感がないなあ」
ネオニュートン号は、ゆっくりと進んでいく。待避エネルギーは、引力エネルギーに変換されている。それを操りプレハブ小屋は進んでいくのだが、現状利用できるエネルギーは少量である。「まだ効率が悪い」とニーノは考えているが、効率が良くなる保証はない。ないが、「なる前提で」予算を確保せねばならない。
未知への好奇心。それが彼を研究へ、そして冒険へと導いている。
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