第38話 殲滅と緊急事態

 レレノンさんから報告された、スタンピードの発生。


 精霊の里はこれに直ちに対応すべく、右霊隊と左霊隊の両隊を出動させた。


「――本当に付いてくるのか?」

「うん。足は引っぱらないから安心して」

「まあ、それは心配していないが……」


 森の中を駆けながら、ロロネアと言葉を交わす。


 スタンピードの対応には、僕も参加させてもらっていた。


 理由は単純な手助けの気持ち半分、経験値稼ぎの狙い半分といったところ。


 最近はモンスターの狩りによるレベル上げの機会が減っていたし、大量のモンスターを相手取れるのは都合がいい。


 里側――ヌヌンギさんも僕の戦闘力は知っているので、「助力感謝する!」と受け入れてくれた。


 普段から付き合いがあるということで、ロロネア率いる右霊隊に加わる形になっている。


 それからしばらく森を進み、スタンピードの先頭集団と衝突した。


 森の中だからはっきりとは確認できないけど、ぱっと見ただけでも軽く百体以上はいる。


 モンスターの種類はまばらで、見たことのあるものから初見のものまで様々だ。


「今だ……放てっ!!!!」


 ロロネアが合図を出し、中~遠距離の魔法に長けた者達が一斉に魔法を放つ。


 さすがは里の精鋭部隊、どの魔法攻撃も威力が高く、正確に木々の間のモンスターを屠っていく。


 僕もレーザーガンを取り出して、打ち漏らされたモンスターを次々と撃ち抜いていった。


「さすがだな! これなら苦労せず倒せそうだ」


 ロロネアは笑って言いながら、自身も強力な魔法の矢をどんどん放つ。


 実際、数は多くても飛び抜けて強い個体はそれほどおらず、僕達のところでスタンピードを食い止めることができていた。


「左霊隊も順調なようだな」


 話せる君を持ちながら言うロロネア。


 円滑な連絡ができるよう、左霊隊のガガイアさんにも話せる君を渡したんだけど、通信によるとあちら側も順調なようだ。


 彼らは僕達右霊隊から少し離れた位置で挟み込むようにモンスターと戦っている。


 その後、奥に進むにつれて強力なモンスターが増えていくも、圧倒的な火力の魔法でそれに応戦。


 1時間強にわたる殲滅作戦が完了した。



 ◆ ◆ ◆



「無事に殲滅できたな。改めて、協力感謝するぞ」

「どういたしまして」


 モンスターの亡骸が散乱する森の中。


 ロロネアと握手を交わし、魔石と素材の回収作業に参加する。


 僕にはコレクターガンがあるので、主な役割は魔石の回収だ。


 コレクターガンを知らない皆が驚く中、サクサクと魔石を集めていく。


 途中、左霊隊のガガイアさんも合流し、ロロネアと3人で作業していると、レレノンさん達影霊隊が戻って来た。


 僕達よりも前方でモンスター達の気を引いて、進行ルートの誘導等をしていたのだ。


「3人とも、お疲れ様。先のほうまで確認したけど、これ以上こちらに来るモンスターはいないわ」

「そうか、それは朗報だな。もう少し苦労するかと思ったが」


 ロロネアが安堵の表情を浮かべる。


「そうね。それはいいことだけど、少し気がかりなこともあるわ。てっきり奥からはぐれが来るかと思ったんだけど、こちらには来てないみたいなの」

「む……言われてみれば妙だな。たしかにボス的なモンスターはいなかった」

「スタンピードで最も警戒するべきは、禁域から来るはぐれだからな。今回は別の原因だったか……?」


 ロロネアとガガイアさんが首を捻る。


 たしかに、はぐれと思われるほどのモンスターは来なかったね。


 そう思いながら聞いていると、レレノンさんがガガイアさんの言葉に反応する。


「いえ……調査した感じ、はぐれが出た可能性は高いわ。これはあくまで予想だけど――」


 レレノンさんは私見を語る。


 なんでも、彼女の見立てによると、今回のスタンピードは本命からあぶれた付随的なものだとのこと。


 はぐれが向かっているのはこちらとは別の方角で、スタンピードの本命もそちらに流れたのではということだ。


「――もう少し先まで偵察を出せば、その辺も詳しく分かると思うわ」


 レレノンさんはそう言って話を終える。


 それから数時間後。


 魔石と素材の回収を終えて里に戻っていた僕達のもとに、偵察後のレレノンさんが報告に来た。


「はぐれの形跡を見つけたわ」


 彼女の予想は当たっていたらしい。


 スタンピードの本体と思われる大群の形跡と、それを追う形で進むはぐれの形跡があったようだ。


 そして、そのスタンピードが向かった先は――


「あくまでも予測ではあるけれど……あのまま先に進んでいけば、に到達するでしょうね」


 アミュズ王国。


 レクシオン領が属している、リベルの生まれ故郷だった。



 ◆ ◇ ◆



 一方その頃、レクシオン領にて。


 禁域方面を見張る兵士の1人が、「ん?」と首を傾げて言った。


 彼が覗いていたのは、遠視用の魔法スコープ。


 禁域方面に広がる平原の向こうに、小さな黒い影を見つけたのだ。


 最初は見間違いかと思ったが、よく見ると僅かながら動いている。


「どうした? 首なんか傾げて」

「いや、なんか妙なもんが見えてな……」


 別の場所を見張っていた隣の兵士にそう答え、2人でしばらく観察する。


 謎の物体が見えたのは、見張り台から20~30キロメイル先の地点。


 気のせいではなくたしかに動いており、数分後には影が大きくなっていた。


「おいおい、まさか――」

「ああ、あれは――」


 魔法のスコープを限界まで拡大し、それが小さな無数の影の集合体だと知った2人は、顔面蒼白になって言う。


 レクシオン領に向かって、大規模なスタンピードが接近中。


 ――そんな緊急の鐘が鳴り響いたのは、それから間もなくのことだった。

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