第37話 報告

 魔スレチックパークにある4つの魔スレチックは、ぐるりと円を描くような形で配置されている。


 そのため、精霊の遊び場から歩いて1~2分で入園ゲート付近に戻って来た。


 しかし、そのままゲートを出ることはせず、別の方向に皆を案内する。


「ん? リベル、どこへ向かうのだ? ジェットパークは里の外だろう?」

「うん。そうなんだけど、わざわざ歩いていくのは不便でしょ?」

「む? ……なるほど、転移か」


 ロロネアは僕の言い方にピンと来たようだ。


 そう、実はゲートから少し入ったところに、ジェットパークと繋がる転移ステーションを作ってある。


 里に遊具を作る案を受け入れる際、精霊様とヌヌンギさんには設置許可を貰っているし、せっかく使える移動手段を採用しない理由はない。


「リベル君、これはなんだね?」

『変わった魔力の流れをしとるのう』


 ジェットパーク行きの転移ステーションに到着すると、首を傾げるヌヌンギさんと精霊様。


「前に設置許可をいただいた、ジェットパークへの転移装置ですよ」

「む! これがそうなのか!!」

「リベル、これは転移ステーション……だと思うのだが、なんだか暗いような……」

「まだスイッチが入ってないからね」


 ロロネアの疑問に答える。


 何も知らずに入って来る人がいた時に備え、転移ステーションのスイッチは切ってある。


 裏手にあるスイッチを操作して起動すると、ステーションが青く発光した。


「それじゃ、転移機能を確認がてら皆さんが来ることを伝えてきます」


 僕はそう言って、転移ステーションの上に立つ。


 転移は問題なく発動し、ジェットパーク内に視界が切り替わった。


 僕に気付いた数人がやって来たので、これからヌヌンギさん達がやって来ること、魔スレチックを置き換えることを説明する。


 皆すぐに頷いてくれて、パーク内で遊ぶ皆に伝達してくれた。


「あ、そういえば」


 転移ステーションに戻ろうとして気付く。


 こちらのステーションは現在僕しか使っておらず、屋敷近くのクラフト小屋に繋がっている。


 今は魔スレチックパークとも繋がっているため、イメージ次第でどちらにも転移できるけど、他の人達が使う時にどうなるか分からない。


 クラフト小屋への転移は一旦封印して、一本化したほうが安全かも。


 それに、今後激しい行き来が始まることを考えれば、こちら側から向こう側、向こう側からこちら側の2種類を用意したほうがよさそうだ。


 同時に使用しても事故が起こることはないはずだけど、分けたほうが効率的だよね。


 ステーションの設計図は既にあるのでその場でパパっと追加して、出口専用&入口専用の表示板を立てる。


 どちらも一方通行なので、逆のステーションに乗っても転移は発動しない。


 出口側はまだどこにも繋がってないから、対になるステーションを作らないとね。


「それじゃあ、すぐにヌヌンギさん達と戻ってきます」


 僕はステーションを使わずにヌヌンギさん達のところへ転移すると、その場で新しい転移ステーションを作製、さきほど同様に2種類の板を立てる。


「では行きましょう」


 それから、皆で順番にジェットパークへ転移する。


『本当に転移できるとは……魔訶不思議な魔道具じゃ』

「乗るだけで転移できるのは便利だな」


 転移ステーションをポータル的に使うのは皆初めてなので、それぞれに驚きの表情を見せる。


 しばらく落ち着くのを待ってから、皆を魔スレチックのもとへ連れて行った。


 ちゃんと通達が行き届いたようで、今は誰も遊んでいない。


 全員が端のほうにずらりと並び、僕達の様子を窺っている。


 ジェットスライダーで遊ぶ分には構わないと言ったんだけど、新しい遊具の設置が気になるらしい。


「さっそく置き換えますね」


 僕は全員に聞こえる声で言い、魔スレチックのスイッチを切る。


 動力がなくなって畳まれたそれをアイテム袋に収納すると、周りから「おおっ」と声が上がった。


『ずいぶんと入る収納袋じゃな……それもお主が?』

「はい。僕が作りました」


 僕はそう答えながら、ジェットスライダー2を取り出して置く。


「おおっ! これが新しい……!」


 ヌヌンギさんや他の皆が嬉しそうな声を上げる中、ジェットスライダー2のスイッチをオンにする。


 ブゥンと低い音が鳴り、ところどころに見える加速リングの光がついた。


「遊び方はそこのジェットスライダーと同じです。滑るのが初めてだという方は他の人のやり方を見ていただければ」


 僕はそれだけ言うと、さっそく皆に遊んでもらう。


 ジェットスライダー2は元のジェットスライダー――ジェットスライダー1と比べて大きく違う点が1つ。


 それは、コースの約7割が不透明な素材で出来ていること。要するに、外が見えない部分が多いのだ。


 前世のウォータースライダーにもそういう部分があったけど、外が見えないからこそ生まれる良さもある。


 ジェットスライダー1との差別化を考えた時、真っ先に思い付いたのが透明かどうかの違いだった。


 ベースに不透明な素材を用い、コースの形も落下部分を長くすることで、1よりも激しいスリルが味わえる。


「私はこちらのほうが好みだっ!」

『儂は透明なほうが好きかもしれんの』

「私はどちらも捨てがたいなと……」


 そう言うのは、ヌヌンギさん、精霊様、メメリさん。


 他の皆にも聞いた感じ、好みの分かれ方は半々みたいだ。


 テスト時にロロネアにも聞いたけど、スリルを求める彼女は2のほうが好みらしい。


 彼女お気に入りの大ジャンプは、2の最後にもちゃんとあるしね。


 ヌヌンギさん一行がジェットスライダー2で遊んだ後は、元々パークに来ていた他の人達も一緒になって遊んでもらう。


 魔スレチックパークが気になるという人も多かったので、ロロネアの部下を案内役として先に帰還してもらった。


 僕は皆がジェットスライダーで遊ぶ間、転移ステーションの工夫を行うことに。


 今は2つ横並びで無造作に置かれた状態なので、2つを隔てる柵を作製し、周りも同種の柵で囲った。


 柵の入口/出口部分には一方からしか押せないタイプの扉を付け、出口専用のステーションにしか入れないような形にする。


 魔スレチックパーク側の転移ステーションも、さっと転移して同じデザインにしておいた。


「フェンスに付けた出入口も不要かな」


 これまではジェットパークの物理的な出入口があったけど、今後は里と繋がるので使わなくなる。


 里の内外を繋いでいる場所でもあるので、セキュリティ強化の面でも出入口はないほうがいいだろう。


 僕は皆にその旨を伝えると、フェンスを完全に閉じて防御結界も強化する。


 実質的に精霊の里の飛び地のような形になった。



 ◆ ◆ ◆



「いやあ、楽しかったよ、リベル君!」


 ジェットスライダー2を皆に案内した数十分後。


 僕達は魔スレチックパークへと戻り、ヌヌンギさんの家に向かっていた。


 精霊様の分体とは既に別れている。


 ヌヌンギさんの家に向かうのは、遊具建設の報酬をもらうため。


 僕としては無償でも構わなかったんだけど、ヌヌンギさんは正式な依頼として妥当な報酬を払うと言った。


 換金しやすい金銀財宝やモンスターの素材を受け取ることになっている。


「それで、今後の管理についてですけど――」


 道中、今後のパークの管理について、いろいろなことを相談した。


 特に重要になってくるのが、各種遊具と転移ステーションのバッテリー管理。


 気付いた人が適当に対応するのではなく、ちゃんとした管理者に任せたほうが安全だ。


 早めに管理者を決めてもらうことをお願いし、バッテリー扉用のキーカードを渡しておいた。


 交換のやり方はロロネアとその部下達等が知っているので、管理者には彼女達から教えてもらうことに。


 さらにバッテリーの魔力源として、大量の魔力生成パネルを置かせてもらう許可も取った。


 未開発エリアにはまだ少しだけ空きがあるので、そこにぎっしりと並べるつもりだ。


 魔力生成パネルの管理はラボの者達が希望するだろうということで、ラボに話を通してもらう。


「まあ、とりあえずそんなところですかね」


 最低限の相談を終え、ヌヌンギさん宅に到着する。


「目ぼしい財宝や素材の目録があるから、それを見ながら決めよう!」

「分かりました」


 報酬について、目録から希望の品を選んでもいいということだ。


 ヌヌンギさんが目録を持ってきて、テーブルの上に置いた時、玄関の扉がノックされる。


「レレノンです。里長に報告が」


 声の主はレレノンさんだった。


 中に入って来た彼女は、僕を見て少しだけ驚きの表情を浮かべつつも、ヌヌンギさんに視線を戻す。


「影霊隊より報告です。ここから十数キロメイル離れた森の中にて、小~中規模のスタンピードを確認しました」

「なにっ! スタンピードだと!?」

「はい。予想していた通り、はぐれの影響かと。影霊隊は引き続き調査を続けるので、右霊隊、左右隊でスタンピードの鎮圧をお願いしたく」

「うむ、もちろんだ! リベル君、報酬の話はまた後で」

「はい、大丈夫です」


 ヌヌンギさんの言葉に頷く。


 スタンピードというのは、何らかの理由でモンスターの大群が押し寄せること。


 ダンジョン等での発生が多いみたいだけど、それが近くの森で起きたらしい。


 隣室で待機していたロロネアとガガイアさんが部屋に呼ばれ、一気に緊張感が走るのだった。

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