第36話 魔スレチックパークのお披露目2

 火の魔スレチック。


 今回僕が里に用意した魔スレチックのうちの1つだ。


 魔法の基本属性である火をイメージしたデザインが特徴的である。


「あちこちから噴いている火は偽物なのでご心配なく。ただ、当たり判定はちゃんとあるので、噴き出した火などは避けてください。もしもろに火を受けた場合は、失格となって転移システムが起動します」


 後半になると上がる難度や失敗すると転移させられるのは、初代魔スレチックと全く同じ。


 里に作った他の魔スレチックも同じシステムを踏襲している。


 各魔スレチックにはそれぞれテーマを設けているが、火の魔スレチックのテーマは激しさ。


 ロロネアにも見せていなかった火の演出が加わることで、より刺激的なコースに仕上がった。


「むぅ……炎に当たってしまった。テストの時より一層難しくなっているな」

「簡単にクリアできちゃうと面白くないからね」


 さっそくコースに挑戦するも、中盤でミスをして送り返されたロロネアに言う。


 初代魔スレチックのコースに比べると、2~3倍は難しくなってるんじゃないかな?


 敷地面積が広い分、コース全体も長くなってるし、最後まで辿り着くには相当な運動神経と集中力が求められる。


 ただ、クリアの難しさはともかく、ちゃんと楽しめるようなコース設計を意識したので、挑戦した皆からの評判は上々だった。


 皆それぞれが3~4回ずつ挑戦し、その大半が中盤までに脱落したけど、(テスト経験者のロロネアを除き)いいところまで行ったのがヌヌンギさん、ガガイアさん、精霊様の3人。


 前者の2人は身体能力が高そうだし、ある程度予想できてたけど、精霊様も運動神経いいんだね。


 そう思って尋ねたところ、魔力操作による身体強化をしているみたい。


 なるほど、魔法を扱う力は世界でも有数だろうし、そういうことなら納得かな。


 分体は体の自由が利きづらいようなので、本来の力があれば楽々クリアできそうだ。


 ちなみに製作者の僕はどうなのかというと、事前にクリア済みだったりする。


 他の魔スレチックもそうだけど、頑張ればクリア可能なことは証明しておきたいからね。


 まあ、僕の場合はギミックをよく理解しているし、身体能力も遊者のおかげで一流だ。


 コースへの挑戦=遊ぶことなのだから、そもそも遊者との相性が抜群に良い。


 最後にデモンストレーションとしてクリアしてみせたんだけど、皆めちゃめちゃ驚いてたよ。


「やはりリベル殿はすごいのだな。人間の子供とは思えない、素晴らしい身体能力だ」

「はは、ガガイアさんも近いうちにクリアできますよ」

「うむ、時折挑ませてもらおう」


 ガガイアさんが笑って言う。


 先日の試合以降、態度が一気に軟化したんだよね。


 真面目で武人気質だからこそ、実力を見せた者には素直なんだろう。


 彼の部下達もそれは同じようで、「さすがっすね!」と褒めてくる。


 なんというか、アニキになったような気分だ。


 照れ臭さに苦笑しながら、次のエリアに移動するのだった。



 ◆ ◆ ◆



 火の魔スレチックをあとにした僕達は、最初の公園と似た子供用の遊具エリアを抜け、2つ目の魔スレチック――“水の魔スレチック”に到着する。


「おおっ! これまた面白い見た目だね!」

『不思議なものじゃのう』


 火の魔スレチックもインパクト抜群の見た目だけど、水の魔スレチックも負けていない。


 こちらはいわゆる水上アスレチックをイメージして作ったもの。


 全部で5つのフロアから構成されており、各フロアにはプールのように水が満たされている。


 透明な巨大プールが間隔を空けて縦に重なった感じかな。


 各フロアの最後には転移用の陣があって、そこに辿り着くと次のフロアへと転送される。


 ギミックのテーマはバラエティで、とにかく多彩なギミックを用意した。


 ぷかぷかと浮かぶ不安定な小島の間を飛び移ったり、自動で動くサーフボードの上でバランスをとったり……ジェットパークの魔スレチックの規模を拡大して、水上版に転換したというイメージが近い。


 火の魔スレチックに比べると全体的な難易度は落ちるけど、足場が濡れて滑りやすいので滑落に気を付ける必要がある。


 下の水にドボンと落ちたり、一部トラップで噴射される水をもろに浴びたりすると失格だ。


 水上のアクティビティはそれならではの魅力があり、目でも楽しめると思うので、火の魔スレチックよりも万人向けだろうと思う。


 実際、メメリさんや子供達には、こちらのほうが向いていると感じたみたいだ。


 ただ、簡単にクリアできるかといえばそうではなく、最後のフロアなんかは火の魔スレチックに劣らないほど難しい。


 ロロネア、ガガイアさん、ヌヌンギさんの3人が4つ目のフロア、精霊様が最終フロアに辿り着いたが、結局クリアするには至らなかった。


 さきほど同様、最後に僕がクリアの見本を見せた後、次の魔スレチックに移動する。


「――次は“土の魔スレチック”です」


 土の魔スレチック。


 火、水に比べると地味な響きに感じるけど、実際はとても個性的だ。


 外界に対してオープンだった前者2つの魔スレチックに対し、土の魔スレチックは完全屋内型。


 外から見ると巨大な土の遺跡、あるいは一種のダンジョンのようで、魔スレチックのテーマは“迷路”。


 内部には狭い通路が複雑に入り組んでいて、各種のトラップが挑戦者に襲い掛かる。


 また、迷路の数箇所には進行度に応じたチェックポイントが置かれており、一定時間内に辿り着けないと失格になる。


 迷路といっても行き止まりがあるわけではなく、チェックポイントまでの距離が長いコースには易しめの、短いコースには難しめのギミックがある形だ。


 ゴールまでの道のりが様々なので、選択次第で違った面白さが楽しめる。


 このシステムは皆にも好評で、お互いのコースがどうだったかを熱く語り合っていた。


「――最後は“風の魔スレチック”です」

 

 土の魔スレチックをあとにして、再びちょっとした公園を抜けた僕達は、4の魔スレチックのもとへ。


 元々魔スレチック用に作ったスペースは3つなんだけど、火、水、土と来て風がないのも変かと思い、風の魔スレチックを追加した。


 といっても、また新しく開けた土地を作ったわけじゃない。


 風の魔スレチックはいわゆる“森の魔スレチック”――元々生えていた霊樹をそのまま生かした魔スレチックだ。


 前世でもフィールドアスレチック等と呼ばれる自然の中のアスレチックがあったけど、こちらも概ねはそんな感じ。


 “爽快感”をテーマにして、木々の間を駆け抜けるコースとなっている。


 その時点でかなり特徴的だけど、他3つの魔スレチックと違う点がもう1つ。


 風の魔スレチックには特にクリアという概念がない。


 あちこちに設置された加速床や跳ねる床、魔動ターザンロープ等を使用して、爽快に森を駆け抜けること自体が目的だ。


 ネットに落ちた場合は他同様に転移が発動するけれど、それはあくまでも安全対策の一環。


 最後まで駆け抜けるのはそれほど難しいことではなく、パルクールを楽しむ感覚で遊んでもらおうと作製した。


「この魔スレチックの存在は私も知らなかったぞ! 爽快感があって楽しいな!」

「他とは毛色が違うからね。あとから追加する形で作ったんだ」

 

 ぐるりとゴールまで駆け抜けて、目を輝かせているロロネアに言う。


 ジェットスライダーの大ジャンプも気に入ってたし、たしかにロロネア向きかもね。


 メメリさんや子供達も爽快感にハマったようで、すぐに2周目を遊んでいた。


「リベル君、この魔スレチックも素晴らしかった!」

『次は里の外にある公園に行くんだったんかのう?』

「そうですね。あといくつか小さなエリアを紹介したら移動します」


 皆が風の魔スレチックで遊び終わった後、僕達は残るいくつかの小規模エリアへ。


 1つは霊樹を生かした木製遊具のエリア。


 これまでに通ってきた遊具エリアの森の中バージョンである。


 さらにもう1つ、普通の遊具エリアを紹介し、最後は精霊用の遊び場を軽く紹介した。


 精霊でも触れられる霊樹を加工して作り出した真っ白な遊び場だ。


 ハムスターが遊んだりする回し車の各種サイズ版や、キャットタワーのようなもの、小人用サイズのアスレチック等が適度に配置されている。


 既に認知している精霊達も結構いて、小動物型の精霊や小人型の精霊がたむろしていた。


『皆喜んでおるのう』


 精霊様曰く、精霊達から喜びの感情が伝わってくるということだ。


 しばし精霊達の戯れを眺めた僕達は、ジェットパークに向けて移動するのだった。

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